近年では、「スマート家電」のように、身の回りのアイテムを電子的に管理できます。
しかし、それらすべては電気で動くので、より多くの電源プラグや電池が必要になっています。
増大する電力需要に対応するため、イギリスのケンブリッジ大学(University of Cambridge)・生化学科に所属するクリストファー・ハウ氏ら研究チームは、新しい電力源として、藻類である「藍藻(らんそう)」の光合成を使用した小型発電機を開発しました。
藍藻の光合成だけで、マイクロプロセッサ(コンピュータで演算・制御を行うチップ)に半年以上電力を供給できます。
研究の詳細は、2022年5月12日付の科学誌『Energy & Environmental Science』に掲載されました。
目次
「モノとモノがインターネットで繋がる世界」に備える
近年では「モノのインターネット(IoT:Internet of Things)」技術に注目が集まっています。
これはパソコンやスマホだけでなく、さまざまな「モノ」がインターネットで繋がり、相互制御できる技術を指します。
IoT技術を導入するなら、エアコンやヒーター、加湿器、温度・室温計がインターネットを通して互いに繋がり、ユーザーの生活リズムや季節に合わせて自動調節することが可能。
また電気代や使用状況のデータを収集・分析して、ユーザーに提示できるでしょう。
他にも、ペットの自動給餌器や水槽、植木鉢などがインターネットで繋がって電子的に情報収集したり、遠隔で管理できたりします。
そしてこれらIoTは、私たちの生活に現在進行形で導入されています。
ただし課題もあります。
身の回りの多くの「モノ」がインターネットで繋がるには、それらを電子制御するマイクロプロセッサや情報収集のためのセンサーが必要になります。
なにより、電力供給の需要が増大するでしょう。
しかし家中のアイテムから電気プラグを引っ張ったり、1つ1つ電池を入れて定期的に交換したりするのは面倒です。
では、IoT技術の広がりに対応できる「新たな電力供給」のアイデアはあるでしょうか?
研究チームは、藻類を利用した小型発電機が役立つと考えました。
藍藻を閉じ込めた小型発電機
開発された小型デバイスは、単三電池と同じくらいのサイズです。
デバイス内には藻類の1種である藍藻(らんそう)とアルミニウム電極が入っています。
窓際に設置するだけで、藍藻が光合成して電流を生成してくれるというのです。
研究チームは、「この光合成装置は、エネルギー源として光を使うので、電池のように消耗することがありません」と述べています。
とはいえ、これだけだと従来のソーラーパネルの方が便利に思えますね。
しかし「藍藻発電機」特有のメリットもあるようです。
例えばチームは、「この藍藻は光合成しながら、自分に必要な栄養を自分で生み出せる」と主張しています。
そのためデバイスに太陽光が当たっていない時でも、余った栄養を消費して電流を生成し続けられるのです。
また、従来のソーラーパネルのように環境に悪影響を及ぼす材料で作られていない、という点も安心できるでしょう。
とはいえ一番気になるのは、藍藻発電機の性能と持続性ではないでしょうか。
その点、実験ではIoT技術に広く採用されてきたマイクロプロセッサに電力を半年以上供給し続けることに成功しました。
発電量は少ないですが、IoTの通信・制御用として、従来の電池の代わりになるかもしれません。
現時点では未解明な部分や改善点が多く残っていますが、将来の需要を満たす可能性を秘めています。
「生物を電池にする」新しい時代が近づいているのかもしれませんね。
提供元・ナゾロジー
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