面白い単語の組み合わせには法則がありました。

シンガポール国立大学(NUS)で行われた研究によれば、人間が面白いと感じる単語の組み合わせには、意外さや下品さに加えて音感も重要であることが判明した、とのこと。

2つの異なる単語の組み合わせはユーモアの最も原始的な形状であり、人間が何に対して「面白さ」を感じるかを調べるには格好の材料と言えるでしょう。

しかし、いったいどうして人間は特定の単語の組み合わせに面白さを感じるのでしょうか?

どうやら根底には「ユーモアとは何か」という深い問題が潜んでいるようです。

研究内容の詳細は『Journal of Experimental Psychology:Learning、Memory、and Cognition』にて掲載されています。

目次

  1. 人間は特定の単語の組み合わせに面白さを感じる
  2. 人間は害のない意外性を面白さと認識する

人間は特定の単語の組み合わせに面白さを感じる

面白い単語の組み合わを作るための法則が判明!
(画像=意外な言葉の組み合わせは、興味を引く作品タイトルの重要な要件 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

私たち人間は、特定の単語の組み合わせに対して「面白さ」を感じることができます。

「ダンジョン」「うなぎ」「飯」「犬」といったありふれた単語でも「うなぎ犬」や「ダンジョン飯」と組み合わせるだけで、不思議と興味深く思えてきます。

同様の単語の組み合わせによって生じる面白さは、映画やアニメ、小説のタイトルにもみられます。

「となりのトトロ」「もののけ姫」「涼宮ハルヒの憂鬱」「天気の子」などは、2つの単語の組み合わせの巧みさによって面白さを演出することで、人々の記憶に深く残っています。

この何気ない事実は、たった2つの単語だけでも人間は注意を惹くような面白さを生成可能であることを示します。

しかし、脳がどのような法則でユーモアを感じ取っているかは、意外に知られていませんでした。

そこで今回、シンガポール国立大学の研究者たちは約5000個の英単語をランダムに2つ組み合わせたものを作成し、人々がどんな法則で面白さやユーモアを感じているかを調べることにしました。

すると面白いと評価された単語ペアには、いくつかの特徴があることが判明します。

鍵となったのは「組み合わせの意外性」「下品さ」「体」そして「音感」でした。

たとえば研究では、人々が面白いと判断したトップ10には「ペニスいたち」「ばらまき陰嚢」「乱暴な腸」などがあったと報告されています。

もとは英単語のため、和訳ではトップ10の面白さはあまり伝わりませんが、これらは組み合わせに意外さがあると同時に、片方に下品な単語や体の部位の単語が含まれているものが多く確認できたそうです。

また「パンジーパンティー」「ノームボーン(ノームの骨)」など前後の音感がかぶるものも面白いと評価されていました。

一方で「パワー影響力」「トラブル言及」「スケジュール年」「大小」のような、つながりに意外性がなく既視感のあるものが、つまらない単語ペアのトップ10に並んでいました。

この結果は、最も面白い単語ペアを作るには「組み合わせの意外性」を基本にして「下品さ」や「体」などに関連した単語を取り込み「音感」を整えることが重要であることを示します。

(※元となる単語たちは英語なので音感や微妙なニュアンスについては日本語と異なる部分があります。たとえばパンジーの場合、花の名前に加えて同性愛の男性を意味することがあります)

研究者たちはこのような法則は、コメディーの作成においてよく知られた「3つのルール」にも該当すると述べています。

このルールでは、1つ目と2つ目の内容で基本設定と流れを形成し、3つ目の内容でそれらを「裏切る」ことが重要だとされています。

そのため研究者たちは、プロのコメディー作家になるには同様の「裏切り」を言語とストーリーの両方で生成し、統合する能力に優れている必要があると結論しています。

しかし、いったいどうして人間はこれらの要素に面白さやユーモアを感じてしまうのでしょうか?

そもそも、面白さやユーモアとはいったい何なのでしょうか?

人間は害のない意外性を面白さと認識する

面白い単語の組み合わを作るための法則が判明!
(画像=人間は害のない意外性を面白さと認識する / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

面白さやユーモアとはいったい何なのか?

過去に行われた研究では、人間の赤ちゃんが言葉よりも先にユーモアを学ぶことが報告されています。

赤ちゃんにとって最初のユーモアの対象になるのは、人間の顔と声です。

赤ちゃんを笑わせる方法として「変顔」や「いないないば~」といった人間の顔を使ったユーモアや、甲高い声を基本とした「寄声」が有効であることが知られています。

赤ちゃんはこれら顔や声を基本にしたユーモアを言葉よりも遥かに早い生後2か月で学ぶことが知られています。

また1歳になると顔や体の一部を隠したり、犬がモーと牛のように鳴く「知識のエラー」や「違和感」がかかわるユーモアが好まれるようになります。

一方で赤ちゃんは何が「下品」であるかといった知識や単語の「音感」といった知識はありません。

この事実は、ユーモアは言葉以上に人間にとって普遍的な機能であり、最も根底には意外性が存在することを示します。

変顔の面白さも、普段見慣れた人のあり得ない表情だから面白いのであって、赤ちゃんは知らない人の「変顔」には笑い声を出しにくいことが知られています。

赤ちゃんのとって知らない人の変顔は恐怖を誘発する可能性もあります。

恐怖や脅威のある場合は、意外性があっても面白さにはつながりません。

今回の研究でも、同様にユーモアには害のなさが重要であることが示されています。

「意外性」「下品さ」「体」「音感」といった要素をかねそなえている単語ペアであっても、攻撃的な内容や脅威にかかわる単語(殺人・暴行・死などの単語)の使用は、面白さの点数を大きく損なう要因になっていました。

どうやら私たち人間は「害のない意外性」を面白さと感じるようにプログラムされているようです。

(※なおジェットコースターのような「制御された恐怖」は快楽につながります)

ただ、最も面白いとされた単語ペアは単なる意外性以外にも、より高度な方法で関連していると研究者たちは考えているようです。

面白いことを言おうとしたり、いいキャッチコピーを考えようとしてもそうそう上手くいかないことを考えれば、単純に言葉の意味が遠ければそれ良いというわけではないのは私たちもよく理解している部分です。

もしその「何か」を解明することができれば、面白さやユーモアのより高度な理解ができるようになり、AIコメディー作家の登場につながるかもしれません。

参考文献 Here’s why phrases like “rowdy bowels” and “moose ooze” seem funny

元論文 Nymph piss and gravy orgies: Local and global contrast effects in relational humor.

提供元・ナゾロジー

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