中生代の海には、プレシオサウルスやエラスモサウルスを筆頭とする、首の長い水生爬虫類(首長竜)が存在しました。

彼らの首の長さは、獲物をとらえるのに役立った反面、余分な抵抗力を生み出すため、効率的に泳ぐにはかなりネックだったようです。

しかし今回、英ブリストル大学(University of Bristol)の新たな研究により、首の長さによる遊泳効率の低下は「体を大きくすること」で補われたことが判明しました。

首長竜にとって、「首を長くしたければ、胴体も大きくする」が鉄則だったようです。

研究の詳細は、2022年4月28日付で科学雑誌『Communications Biology』に掲載されています。

目次
首の長さで生じる抵抗力を「体の大きさ」でカバー
首の長さは「胴体の2倍」が限度

首の長さで生じる抵抗力を「体の大きさ」でカバー

四肢を持つ脊椎動物は、過去2億5000万年の間に繰り返し地上から海に戻っており、イルカによく似た絶滅爬虫類の魚竜(Ichthyosaurs)や、体長25mを超えるクジラなどに進化しました。

中でも極端な形態に進化したのが、非常に長い首と4つの大きなヒレを持つ「首長竜(Plesiosauria)」です。

魚竜やクジラの体は、水中の抵抗力が少ない流線型をしており、すばやい泳ぎに適した体型をしていました。

一方の首長竜は、胴体から伸びる長い首が強い抵抗力を生み、水中での動きを鈍くしていたと考えられます。

中でも、エラスモサウルスには、首の長さが6メートルにも達するような種までいたという。

「首長竜って泳ぐのに首は邪魔じゃなかったの?」 素朴な疑問を解明!
(画像=本研究で作成した首長竜や魚竜、クジラ類の3Dモデル / Credit: S. Gutarra Díaz et al., Communications Biology(2022)、『ナゾロジー』より引用)

これまで、首長竜たちの遊泳効率に、体型やサイズがどのように影響するかは明らかになっていませんでした。

そこで研究チームは、首長竜・魚竜・クジラ類の化石をもとに様々な3Dモデルを作成し、体型やサイズが遊泳効率に与える影響を調べる、フロー(流体)シミュレーションを実施。

その結果、首長竜は、確かに魚竜やクジラ類より強い抵抗力を受けていたものの、遊泳効率は予想されたよりずっと高いことがわかりました。

3Dモデルの周囲に発生する流体速度を比較しても、首長竜の遊泳スピードは、決して魚竜やクジラ類より遅いものではなかったのです。

「首長竜って泳ぐのに首は邪魔じゃなかったの?」 素朴な疑問を解明!
(画像=モデル周囲の色が流体速度を示す(青ほど遅く、赤ほど速い) / Credit: S. Gutarra Díaz et al., Communications Biology(2022)、『ナゾロジー』より引用)
「首長竜って泳ぐのに首は邪魔じゃなかったの?」 素朴な疑問を解明!
(画像=首長竜の3Dモデルと流体速度 / Credit: S. Gutarra Díaz et al., Communications Biology(2022)、『ナゾロジー』より引用)

特に、グループ間に見られる抵抗力の差は、体型ではなくサイズを考慮すると、有意なものではなくなりました。

首長竜は、極端な形態(長い首)によって生じる抵抗力を、体の大きさでカバーしていたのです。

体が大きいと、その分だけ筋肉量も増え、抵抗力を補うだけの体力や遊泳スピードを得られたと考えられます。

研究主任のスサナ・グタラ・ディアス(Susana Gutarra Díaz)氏は、この結果について、「水生生物の遊泳効率を決定するのは、体型よりサイズである」と述べています。

次にチームは、首長竜の中でも特に首の長いエラスモサウルスについて、詳しく調査しました。

すると、首の長さと胴体の大きさに関して、とても興味深い結果が出ています。

首の長さは「胴体の2倍」が限度

エラスモサウルスの3Dモデルを使ったシミュレーションの結果、首がある一定の長さを越えると、余分な抵抗力を生み、遊泳効率を下げることがわかりました。

そして、遊泳効率を低下させない首の長さの限界は、胴体の長さの2倍程度と判明したのです。

要するに、胴体が首の長さの半分以上あれば、抵抗力をカバーするには十分だということを意味します。

その証拠に、保存状態の良い実際の化石を大量に調べたところ、ほとんどのエラスモサウルスの首の長さは、この比率の限度以下に収まっていたのです。

さらに、首の長い種ほど、胴体の比率が大きくなっていることも確認されました。

「首長竜って泳ぐのに首は邪魔じゃなかったの?」 素朴な疑問を解明!
(画像=様々な首長竜の「首:胴体」の比率 / Credit: S. Gutarra Díaz et al., Communications Biology(2022)、『ナゾロジー』より引用)

これを踏まえると、クジラのような大型の水生生物でも、首長竜に見られる極端な形状を持つ余裕があると考えられます。

長い首が欲しければ、その分、胴体も大きくすれば良いのです。

しかし、このルールには限度があります。

体は無限に大きくできるわけではなく、巨体にはそれだけ生物学的な制約や、いくつものデメリットがあるからです。

同チームのマイク・ベントン(Mike Benton)氏は、次のように指摘します。

「そのため、首長竜の首の長さは、狩りで得られる利益と、そのような長い首を成長させ維持するためのコストとのバランスをとっているようです。

言い換えれば、彼らの首は、水中での抵抗力を最小限に抑えるために、体全体の大きさとバランスをとって進化したのでしょう」


参考文献

Large Bodies Helped Ancient Sea Monsters With Extremely Long Necks Swim

Ancient sea monsters with long necks had to evolve large bodies to rule Earth’s oceans around 200 million years ago, study finds

元論文

Large size in aquatic tetrapods compensates for high drag caused by extreme body proportions


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功