価格面には課題 混紡糸の生産にも柔軟に取り組む

しかし、国産コットンの事業を軌道に乗せるまでの課題は多い。2020年2月、東京・日本橋の「誠品生活日本橋」で展示販売するチャンスを得たが、超長綿100%のTシャツは1枚2万円。「1か月間で1枚しか売れませんでした」と鷲尾氏は苦笑いする。

このかこっとんの日本産コットンを、最高級品質のコットンブランドとして展開するのが鷲尾氏の描く構想だ。高級コットンといえば、イギリスの高級ニットブランド「ジョンスメドレー」でおなじみの海島綿(シーアイランドンコットン)が知られる。西インド諸島で年間わずか800トンしか栽培されないという希少な「海島綿」だが、それと比較しても、かこっとんの超長綿の価格はその約2倍だ。収益化に向け鷲尾氏の挑戦は続く。

この日本産コットンをより多くの人に知ってもらい、体験してもらうためにも「100%使用にはこだわらない」と鷲尾氏は柔軟に取り組む方針だ。また、長崎県雲仙市の「アイアカネ工房」では、希少なかこっとんの超長綿を40%混紡した糸でハンドタオルを5千枚生産した。

「まずはこういった国産オーガニックコットンの取り組みを広く知ってもらうことが重要。すべての国産の製品に数%でも日本産コットンが入っている状態になるのが理想」だという。

日本独自のオーガニック認証基準を

めざすは最高級ブランド!環境、人権問題背景に脚光、国産オーガニックコットンの挑戦
(画像=肌触りの良い、完全国産「超長綿」生地X京都の草木染という最高級のストールを生産している、『DCSオンライン』より引用)

もう一つの壁が、オーガニックコットンの国際認証基準の存在だ。その代表が「グローバル オーガニック テキスタイル スタンダード認証」(Global Organic Textile Standard:GOTS)で、オーガニックテキスタイルのグローバル・スタンダードとなっている。しかし、この「GOTS」には、非常に厳しい環境基準があり、周囲の土地に巻かれた農薬の影響を受けざるを得ない、狭い農地しか確保できない日本では大きなハードルとなっているのだ。

そこで、鷲尾氏は「日本独自のオーガニック認証基準をつくり、世界にアピールしたい」と意気込む。

「水源の豊富な日本では海外のようにむりやり水路を引く必要がなく、もともとコットン栽培に適した土壌を持つ。『有機JAS』という認証制度もあり、日本の安心・安全な日本産コットンが世界に支持される可能性は十分にある」

休耕田の活用による農地保全。障がい者への適正な就労機会の提供。さらに、生産工程で産出される「綿実油」はヘルシーな食用油で、そうめんの製造における「油返し」の工程にも用いられる。日本の国産コットンは、栽培・加工の過程でさまざまなサステナビリティの要素を備えており、SDGsの文脈でも国際的にも強いメッセージを発信しうる。

イタリアの「ミラノ・ウニカ」やフランスの「プルミエール・ヴィジョン」といった世界最高峰のテキスタイル見本市に、「パーフェクト・メイド・イン・ジャパン」のオーガニックコットンが並ぶ日を期待したい。

提供元・DCSオンライン

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