銅はその優れた熱と電気の伝導性から日常でも、エネルギー関連事業でも広く使用されている金属の1つです。
しかし、銅はその製錬の際に有毒物質を出すため、銅鉱山周辺では公害問題がつきまといます。
こうした問題に対して、4月23日にオープンアクセスジャーナル『Science Advances』に発表された新しい研究は、銅鉱山で見つかった細菌が有毒な銅イオンを安定した単一原子銅に変換しているのを発見したと報告しています。
この研究が進めば、鉱毒問題の1つが解決されるかもしれません。
鉱毒問題を解決するバクテリア
銅は世界でも広く使われている金属ですが、その採掘や製錬は公害問題との戦いでもあります。
日本にもかつて採掘量世界一を誇る有名な足尾銅山がありましたが、ここでも銅を製錬する際に排出される鉱毒が大きな問題になりました。
足尾銅山鉱毒事件といえば、歴史の教科書にも乗っている有名な出来事なので、この公害問題は理解している人も多いでしょう。
今回の研究は、そんな鉱山の公害問題の1つを解決できるかもしれないというものです。
研究チームは、ブラジルの銅鉱山からあるバクテリアを発見しました。
鉱山にバクテリアが住んでいるということは以前からもわかっていましたが、このバクテリアが鉱山で何をしているのかというのは謎でした。
研究チームは、この鉱山のバクテリアを電子顕微鏡の中で観察し、彼らが何をするのかということを分析したのです。
すると、バクテリアは有毒な硫酸銅(CuSO4)を安定した単一原子の銅に分離していたのです。
通常、化学の観点からは、化合物から単一の元素を分離するというのは非常に難しい問題で、いろいろな化学物質に頼る必要が出てきます。
銅を製錬する際の公害問題は、ここに起因しています。
しかし、このバクテリアは自然にそれを行っていたのです。
さまざまな公害問題と引き換えにして行われていた銅の製錬が、環境中に存在する微生物によって簡単に実現できるというのは、かなり画期的なことです。
「微生物は独自の生物学的経路を利用して、有毒な銅(II)イオン(Cu2 +)を抽出し、それを単一原子の銅(Cu)に変換できるタンパク質を持っています」
ヒューストン大学カレン工科大学のデボラ・ロドリゲス氏はそのように説明します。
この微生物の活動は、毒性の少ない環境を作り出し、同時に私たちに有益な金属銅も作り出してくれるのです。
研究は現在単一のバクテリアしか扱っていませんが、この機能を実行する要因は他にも存在する可能性があります。
しかし、この研究を進めることで、現在の方法よりも安全で効率的な金属銅の生成手段を提供できるようになるかもしれません。
参考文献
From Toxic Ions To Single-Atom Copper(UH Cullen College of Engineering)
元論文
Copper mining bacteria: Converting toxic copper ions into a stable single-atom copper
提供元・ナゾロジー
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