いきなりですが、心理テストです。

在日中国人と在日韓国人はそれぞれ日本人口の何%を占めるでしょうか?

どう考えても心理テストには思えない質問ですが、人々の回答と現実を突き合わせると、非常に奇妙な結果になるはずです。

イスラエルのヘブライ大学(HUJI)で行われた研究によれば、少数派の人数は強く過大評価される傾向にあることが示されました。

現在、在日中国人の日本人口に占める比率は0.61%、在日韓国人は0.38%となっており、両方をあわせても1%には届きません(※2018年の記録です)。

おそらく多数派の日本人だけでなく少数派の中国人・韓国人にとっても、この数字は少ないと感じるでしょう。

しかしどうして私たちの脳では、少数派の人数を過大評価してしまう心理が働くのでしょうか?

研究内容の詳細は『PNAS』にて掲載されています。

目次

  1. 少数派がたくさんいるようにみえる「多様性の幻想」を発見!
  2. 「違う」という意識は強力な歪みを作る

少数派がたくさんいるようにみえる「多様性の幻想」を発見!

少数派がたくさんいるように感じる「多様性の幻想」を発見!
(画像=少数派がたくさんいるようにみえる「多様性の幻想」を発見! / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

私たち人間の社会には常に多数派と少数派が存在します。

人種や国籍をはじめ、出身地、好み、性的指向など多数派と少数派の組み合わせは無数に存在します。

そのためある分野では多数派になる人が、別の分野では容易に少数派になります。

では私たちの脳は、この多数派と少数派をどのように認識しているのでしょうか?

ヘブライ大学で行われた研究では、少数派に対する私たちの認知はかなり酷く歪んでいることが示されました。

例えばアメリカを対象に「人口の何%が黒人か?」と質問を行った場合、平均して41%が黒人であるとの答えが返ってきました。

しかしアメリカにおける黒人の実際の比率は12%に過ぎません。

またイスラエルのある大学に通う学生たちに「自分たちの大学には何%のパレスチナ人がいるか?」が尋ねられたケースでは、ユダヤ人学生は平均して31.56%がパレスチナ人だと答え、パレスチナ人学生は平均して35.81%がパレスチナ人だと答えました

どちらも3割を超えるものです。

しかし実際のパレスチナ人学生の割合は、わずか9.28%に過ぎませんでした。

これらの結果は、あるグループにおいて少数派とみなされる人数は極めて歪んだ過大評価を受けていることを示します。

しかも歪みは多数派から少数派に向けたものだけでなく、少数派の人々が自分たちに向けた認識ても起きていました。

少数派がたくさんいるように感じる「多様性の幻想」を発見!
(画像=目の前の事実でさえ歪んで見えてしまう / Credit:Rasha Kardosh et al . 2022 . PNAS、『ナゾロジー』より引用)

さらに認知の歪みは画像認識にすら大きな影響を与えていることが判明します。

人口に占める割合の予測は、正確な数値を知っている人以外にとっては、いってみれば単なる予測に過ぎません。

そのため次に研究者たちは、被験者たちに対して複数の人物の顔写真が映った画像を2秒ほど見てもらい、黒人の比率を答えてもらうテストを行いました。

写真全体において黒人が占める実際の比率は25%になっています。

このテストは人口における黒人の比率を答える予測力や知識力が試されているのではなく、単に目の前の事実を答えてもらうだけです。

しかし結果はやはり歪んでいました。

白人の参加者は43.22%が黒人だと答え、黒人の参加者は43.36%が黒人だと答えました。

この結果は、少数派に対する歪んだ認知は、予測能力だけでなく目の前の事実に対しても極めて強く働くことを示しています。

そして歪みは多数派である白人だけでなく少数派である黒人でも起きていました。

いったいどうして、私たちの脳はこんなにもポンコツなのでしょうか?

「違う」という意識は強力な歪みを作る

少数派がたくさんいるように感じる「多様性の幻想」を発見!
(画像=自分と違うという意識があるだけで「多様性の幻想」が起きてしまう / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

いったいどうして少数派に対する認知は歪むのか?

その答えを研究者たちは人間の注意力が原因だと述べています。

人間の脳は、珍しく予期しないものに対して注意を向けるように作られています。

そして注意の偏りは、注意が向けられた対象に対して強調効果を与えると考えられています。

つまり、私たちが少数派の人数を実際より多く感じる背景には、人間の脳が発揮する注意力の偏向が潜んでいるからと言えるでしょう。

研究者たちはこのような注意力の偏向によって少数派が実際よりも多く見えてしまうことが「多様性の幻視」であると述べています。

興味深いのは、この注意の偏向が多数派が少数派に向けるものだけでなく、少数派の人々が自分たちに向ける注意にも起きている点にあります。

多数派の場合は「自分たちと」違う、少数派の場合は「自分たちは」違うという意識が、それぞれ根底に流れているからだと考えられます。

言われてみれば、なんでもない心理に聞こえるかもしれません。

しかし本研究のように、この奇妙な歪みが学術的・体系的に調査される機会は稀でした。

研究者たちは、このような歪みは正しい多様性の発展と正しい理解を阻害する可能性があると述べています。

研究者たちは「多様性の幻想」は誰にでも起こるものであり、完全に逃れられる人はほとんどいないと述べています。

もし効果的な多様性への取り組みを行いたいのならば、安易に少数派を視覚的に目立たせるのではなく、数値に基づいた正しい知識を広めていくべきでしょう。

参考文献
Seeing members of minority groups everywhere? It’s an illusion
People overestimate the presence of minorities around them, impeding equity and inclusion

元論文
Minority salience and the overestimation of individuals from minority groups in perception and memory

提供元・ナゾロジー

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