point
- セシリアンは手足がないヘビのような両生類である
- 研究者が偶然、セシリアンの口の中に分泌腺を確認した
- 分泌腺はヘビと同じように歯の組織から生じており毒成分も似ていた
ヘビのように手足をもたない両生類が、ヘビと同じように牙に毒腺を持つ可能性が示されました。
7月3日に「iScience」に掲載された論文によると、セシリアン(和名:アシナシイモリ)と呼ばれる手足のない両生類は、カエルやトカゲといった獲物を狩るために毒腺を使っている可能性があるとのこと。
これまでの研究で両生類にみつかった毒は捕食者から身を守るための「皮膚から分泌される毒」だけです。
セシリアンがヘビ毒の元祖だったのか、それともヘビのような体は毒持ちになりやすいという収斂進化(しゅうれんしんか)の結果なのでしょうか?
大発見は日頃の地道な観察から
セシリアンはアフリカ、アジア、アメリカ大陸の熱帯気候に生息する両生類で自分で掘ったトンネルの中で生活するためか、ほとんど目が見えていません。
また、セシリアンは敵に襲われた場合、巣穴に頭から逃げ込んで、毒を含んだ尻尾で栓をすることが知られていました。
しかしセシリアンについてはそれ以上の情報はほとんどなく「最も研究されていない脊椎動物」と言われていました。
ブタンタン研究所のフォンタナ氏は、そんなセシリアンを研究する数少ない研究者の一人であり、セシリアンの分泌する粘液について調べていました。
セシリアンは尾部から分泌する毒液以外に、トンネル内を効率よく移動するために頭部からも粘液を分泌しています。
しかし、粘液を分泌する分泌腺を調べているうちに、ふと、これまでの両生類には見られない分泌腺がセシリアンの口の中にもあることに気付きました。
口内で牙に隣接した分泌腺は通常、ハ虫類など毒を狩りに使う生き物にみられるものです。
そのためフォンタナ氏は、セシリアンも両生類でありながら、狩りに毒を使っていると考えました。
セシリアンの主なエサはカエルやトカゲであり、毒をしたたらせた牙で噛みつくことで、これらの獲物の捕食が容易になる可能性があったからです。
分泌腺と分泌物の分析
フォンタナ氏は仮説を証明するために、セシリアンの分泌腺が体の何処の組織から由来するかを確かめました。
通常、毒があるカエルなどの分泌腺は、皮膚から枝分かれして作られます。
しかしフォンタナ氏が孵化前のセシリアンの胚を調べた結果、セシリアンの口腔内分泌腺は、ヘビやトカゲの毒腺と同じく、歯の組織から枝分かれしていたことがわかりました。
また分泌物の成分を分析した結果、動物の毒液に含まれていることが知られている、脂肪切断タンパク質(ホスホリパーゼA2)が含まれていることが明らかになったとのこと。
しかし、生物の作る毒の分析は非常に難しく(例えばエチゼンクラゲの毒の正体は解析不能)どれほどの毒性が、どの成分に由来するかまでは突き止められませんでした。
フォンタナ氏は実験設備が整い次第、セシリアンの分泌する毒性の強さなどを分析していく予定だと述べています。
両生類「セシリアン」はヘビ毒の元祖か収斂進化か?
今回の研究により、両生類もまたヘビのように毒をつかって狩りをする可能性が示されました。
両生類はハ虫類に先立って誕生したことが知られており、毒を使った狩りの元祖がハ虫類ではなく両生類が先に獲得した可能性も考えられます。
もしくは、ヘビのような外見をした生物にとって毒の獲得は有利であり、結果的に同じ特性を獲得した「収斂進化」の可能性もあるでしょう。
ただどちらにしても、毒の獲得はセシリアンにとって有利なのは間違いありません。
研究内容はブラジル、ブタンタン研究所のペドロ・ルイス・マイヨ・フォンタナ氏らによってまとめられ、7月3日に学術雑誌「iScience」に掲載されました。
Morphological Evidence for an Oral Venom System in Caecilian Amphibians
reference: sciencedaily / written by katsu
提供元・ナゾロジー
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