近年では、ロボット技術や情報通信技術を利用して、自然環境にアプローチできます。
「ドローンを用いた気象観測」や「スマート農業」などは、特に注目されていますね。
しかし広範囲にロボットやセンサーを配置しなければならず、そのためには膨大なコストと時間がかかってしまいます。
そこでアメリカ・ワシントン大学(University of Washington)に所属するヴィクラム・アイヤー氏ら研究チームは、タンポポの綿毛のように風に乗って広がる小型センサーを開発しました。
これにより、数千ものセンサーを広範囲に素早く配置できるのです。
研究の詳細は、2022年3月16日付の科学誌『Nature』に掲載されました。
目次
タンポポの種が広がる原理を利用する
タンポポ型センサーは太陽光で動作し、大きなネットワークを築く
タンポポの種が広がる原理を利用する
気象観測や、スマート農業などAIで作物を管理するためには、広範囲にセンサーを設置して情報を取得する必要があります。
しかし広範囲にセンサーを設置するのは手間のかかる問題であり、また人の入りづらい山や森の奥などに設置するのはかなり困難です。
いかに管理・分析するための技術が進歩しても、「どのようにセンサーを広範囲に配置するか」という問題が解決されなければ、有効に活用することはできません。
そこで研究チームは、タンポポが風に乗って種を広範囲にばらまく仕組みに目を向けました。
タンポポの種ように、風に乗って広がる小型センサーを開発したいと考えたのです。
タンポポの種が遠くまで広がる秘密は、その構造にあります。
タンポポの種は誰もが知る通り、パラシュートのように種が綿毛に吊るされています。
この綿毛の周囲を流れる空気が独特な渦を形成することで、種の落下速度が遅くなったり、時には風で上方にすくい上げられたりするのです。
チームは、このタンポポの種と綿毛の構造を2次元に投影。新デバイスのベースにしました。
またリング構造を追加したり、デバイスの剛性や面積を大きくしたりすることで、タンポポの種より重いデバイスても効果を発揮するようにしました。
試行錯誤により完成したのは、丸い薄型センサーです。
センサーの重量は30gとタンポポの種の約30倍重いですが、そよ風に乗って100mも移動することが可能です。
タンポポ型センサーは太陽光で動作し、大きなネットワークを築く
新しく開発されたセンサーは、バッテリーの代わりにソーラーパネルが採用されています。
95%の確率でソーラーパネルが表になるよう落下するため、散布されたほとんどのセンサーが太陽光からエネルギーを得られるようになっています。
ソーラーパネルを採用しているので軽く、デバイスが壊れるまで機能し続けるというメリットもあります。
また散布の偏りをなくすため、それぞれのデバイスは形状がわずかに変えられています。
これにより、風による運ばれ方が変化。
ドローンで1つの地点に散布するだけで、あるセンサーは近くに落下し、別のセンサーは遠くまで運ばれるのです。
そして広範囲に散布されたセンサーは、それぞれが温度、湿度、気圧、照度を計測し、日中の情報を送り続けてくれます。
ドローンを使って何千ものセンサーを1度に投下し、瞬時に広範囲ネットワークを構築できるのです。
研究チームは「従来通りに人がいちいちセンサーを設置していれば、同レベルのセンサー配置に数カ月かかる」と述べており、この新しいシステムが「センサー配置の分野に革新をもたらす」とも主張しています。
とはいえ、現段階では改善すべき点もあります。
電子機器が広範囲にばらまかれることになるので、それらが環境に悪影響を及ぼす恐れがあるのです。
そのためチームは、デバイスを生分解性(微生物で分解される性質)の高いものにするための研究を続けています。
参考文献
Tiny battery-free devices float in the wind like dandelion seeds
元論文
Wind dispersal of battery-free wireless devices
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功