エチゼンクラゲは中国、韓国、日本の近海で目撃される世界一巨大なクラゲです。
ときおり大量発生し、漁業に被害を出しているため、ニュースで聞いたことがあるという人も多いでしょう。
このエチゼンクラゲは、他のクラゲ同様触手に毒を持っていて、触れると腫れや赤みを発生させます。
これは一般的には痒くなる程度の弱毒と伝えられていますが、実際には重症化することがあり、最悪ショック死を引き起こすこともあります。
ただ、エチゼンクラゲの毒は非常に複雑なもので、何が人を死に至らしめる可能性がある成分なのかよくわかっていません。
生態についても謎の多いエチゼンクラゲですが、科学雑誌『Journal of Proteome Research』に報告された新たな研究は、その致死的な毒の成分について、新たな発見を報告しています。
毒素を理解することは、クラゲに刺されたときの解毒薬開発に役立つものです。
多き巨大クラゲ
エチゼンクラゲは、大きいものだと傘の直径が2m、重量は150kgにもなる世界一巨大なクラゲです。
日本近海で定期的に大量発生しますが、その原因はよくわかっていません。
複雑な触手には毒があり、これは毎年中国、韓国、日本などの海水浴客が何万人も刺されています。
刺されると、すぐに激しい痛みが起き、その後、赤みや腫れなどの症状が続きます。
網にかかったエチゼンクラゲをどかすために、漁師もよく触手に触れてしまい痒みが起きるなどの被害が報告されています。
毒性は弱いとされていますが、実際エチゼンクラゲの毒は非常に複雑な成分をしていて詳しいことがよくわかっていません。
中には重症化する人や、ショック死を起こしてしまう人も存在しています。
そのため、エチゼンクラゲの毒のどの成分がそれほど危険なのかという研究も、進められているのです。
複雑な毒の混合物
研究者たちは、中国大連の沿岸でエチゼンクラゲを捕獲し、新鮮な毒の触手を集めました。
そして、そこから毒タンパク質を抽出し、クロマトグラフィーを使用して成分ごとに分離しました。
すると、エチゼンクラゲの毒液は200以上にも及ぶ非常に複雑な成分の混合物であることがわかったのです。
研究者は抽出したタンパク質を異なるグループに分離して、マウスに注射し、毒の効果を確認しました。
結果、これらの毒は、細胞膜のイオンチャンネルを標的にしたものから、血液を固める作用を持つものなど13種類の毒素グループが明らかになったのです。
それはヘビやクモ、ハチに見られる有毒な酵素やタンパク質に似ていました。
これらの及ぼす体への影響は、心臓血管のうっ血や、血管の変性、肝臓の細胞死、腎臓や肺の炎症など多岐にわたります。
毒により死亡したマウスを分析したところ、肺の損傷と浮腫が可能性の高い死因であるとわかりました。
これはヒトのショック症状の報告と一致した結果です。
しかし、これら個々の毒素が実際どの様に動物を殺すのか確かめることは難しいようです。
体の異なる臓器を標的にした複数の毒素が協調して、同時に作用することが死を引き起こしている可能性が高いというのが研究者たちの見解です。
異様な姿に未知の恐怖を感じてしまうエチゼンクラゲですが、その毒素もなんとも異様なものであるようです。
参考文献
phys
提供元・ナゾロジー
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