40代を過ぎると、徐々に近くが見えづらくなります。
これは「老眼」と呼ばれており、世界の10億人以上が影響を受けています。
最も一般的な解決策は老眼鏡をかけることですが、2021年の末、新しい方法が追加されました。
アメリカ食品医薬品局(FDA)が、老眼を緩和させる点眼薬「Vuity」を承認したのです。
詳細は、2021年10月29日付の『アメリカ医薬品企業アッヴィのプレスリリース』にて報告されました。
既に多くの人が使用して、効果を実感しているようです。
目次
老眼の原因は水晶体の老化にある
瞳孔を絞ってピントを合わせやすくする老眼用目薬
老眼の原因は水晶体の老化にある
視力の良し悪しは、遠近の対象にピントが合うかどうかで判断できます。
そしてこの「ピント調整」には、3つのステップがあり、私たちは物を見るとき、無意識にこのステップを踏んでいます。
(1)対象に目を向け、(2)水晶体の形を変え、(3)瞳孔を収縮させるのです。
では、どのようにして老眼が生じるのでしょうか?
原因は2番目のステップである「水晶体の変形」にあります。
水晶体は水とタンパク質でできた弾力性のある器官であり、周囲の筋肉で引っ張って薄くしたり、ぐっと押して厚くしたりできます。
水晶体の厚さが変わると光の屈折率も変わるので、これにより遠くにピントを合わせたり、近くにピントを合わせたりできるのです。
そして老眼は、加齢によって水晶体の調整機能が低下することで生じます。
周囲の筋肉が硬くなって水晶体に力を加えられなくなったり、水晶体自体の弾力が失われたりすることが原因です。
しかし、老眼の根本原因を解決するのは今のところ難しいようです。
そこで新しく開発・承認された目薬「Vuity」は、「ピントの合わせやすさ」に関係する3つ目のステップ、「瞳孔の収縮」にアプローチしています。
瞳孔を絞ってピントを合わせやすくする老眼用目薬
人間は物を見るとき、水晶体の変形と同時に、瞳孔の大きさを変えて目に入る光量を調整しています。
そして瞳孔が小さくなると、ピンホール効果(焦点深度が深くなる)によってピントが合わせやすくなります。
小さい穴から景色を見たり、目を細めたりしたときに鮮明に見えるのは、この効果が影響しているからです。
ちなみに、暗い場所では光をたくさん集めるために瞳孔が大きくなりますが、ピントは合わせづらくなります。
「暗い場所で本を読んではダメ」と言われるのは、ピントが合わせづらい状況で目に負担がかかるためなのですね。
つまり瞳孔を小さくすると、上図(a)のように、一時的にピントが合う範囲を広げられます。
逆に瞳孔が大きい状態(もしくは通常状態)だと、上図(b)のようにピントが合う範囲が限られたままです。
老眼の人は、そもそも水晶体の老化によって通常のピント範囲が狭いので、瞳孔を小さくすることで、(b)から(a)のような視力が得られるはずです。
そして新しい老眼用目薬「Vuity」は、瞳孔を小さくする薬です。
有効成分は「ピロカルピン」ですが、これは昔から利用されており、緑内障の点眼薬としても活躍してきました。
Vuityはピロカルピンを老眼用に調整したものなのです。
効果は6時間以上続くため、朝に1回点眼するだけで、その日は老眼の影響が緩和された状態が続くでしょう。
利用した人の中には「老眼鏡の生活には戻れない」と述べる人もいるほど。
とはいえ、副作用があることも忘れてはいけません。
目に入る光量が減少するため、全体的に暗く感じますし、夜間は特に周囲が見えづらいでしょう。
また実験では、5%以上の参加者に頭痛と目の充血が生じました。
Vuityは現在、処方箋のもとアメリカで購入でき、1本の価格は約80ドル(1万500円)となっています。
毎日使っても1カ月近くはもつようです。
Vuityが承認されてからまだ数カ月しか経過していませんが、既にさまざまな科学者が、この分野でさらなる研究を進めています。
将来、老眼に悩む人の生活は大きく変わるかもしれませんね。
参考文献
New eye drops can help aging people see better – an optometrist explains how Vuity treats presbyopia
U.S. Food and Drug Administration Approves VUITY™ (pilocarpine HCI ophthalmic solution) 1.25%, the First and Only Eye Drop to Treat Presbyopia (Age-Related Blurry Near Vision)
提供元・ナゾロジー
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