今から約6600万年前、地球に巨大隕石が衝突し、恐竜を含む多くの生物が絶滅しました。

その中で生き残ったのが、現生鳥類の祖先たちです。

中には絶滅した鳥類もいましたが、現代につながる多くの鳥たちが生き残りました。

はたして、両者の命運を分けたものは何だったのか、テキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin )は、新たに発見された絶滅鳥類の化石をもとに調査を開始。

その結果、「鳥脳(Birdbrain)」を持っていたかどうかが、絶滅と生存の道を分けた可能性が示唆されました。

研究は、7月30日付けで科学誌『Science Advances』に掲載されています。

「鳥脳」が生存と絶滅の命運を分けた?

新たに見つかった化石は、約7000万年前の「イクチオルニス(Ichthyornis)」のほぼ完全な頭蓋骨です。

イクチオルニスは、白亜紀後期(9600万~6600万年前)に、今日のアメリカ中西部・カンザス州に生息していました。

絶滅した鳥類であり、現生鳥類につながる子孫はいません。

鳥類と鳥類型恐竜の合体したような見た目をしており、くちばしには細かな歯が生えそろっています。

今回の化石は、頭蓋骨がほぼ完全に残り、内部の脳が無傷で保存されていたため、現生鳥類の脳と比較することができました。

「鳥脳」をもつ者が、恐竜を絶滅させた隕石から生き延びたという研究
(画像=発見されたイクチオルニスの頭蓋骨、下はCT画像 / Credit: Christopher Torres / The University of Texas at Austin(2021)、『ナゾロジー』より引用)

チームはまず、頭蓋骨のCT画像を撮り、それをもとに脳の3Dレプリカをデジタル上で作成しました。

これと同じ手法を現生鳥類でも行います。

その結果、イクチオルニスの脳は、現生鳥類とは似ておらず、絶滅した鳥類型恐竜と共通点が多いことが判明したのです。

とくに、発話や思考、感情などの高次認知機能にかかわる「大脳半球」は、イクチオルニスで小さく、現生鳥類ではかなり大きくなっていました。

大脳半球は、人間において高度に発達しており、高い思考力に関与しています。

「鳥脳」をもつ者が、恐竜を絶滅させた隕石から生き延びたという研究
(画像=大脳(白)、視葉(赤)、小脳(青) / Credit: Christopher Torres / The University of Texas at Austin(2021)、『ナゾロジー』より引用)

研究主任のクリストファー・トーレス氏は「現生鳥類は、哺乳類をのぞけば、どの動物よりも複雑な脳を持っています。

脳機能が、大量絶滅期の生存率に影響したとするなら、生存者にあって、絶滅した者になかった特徴があるはずです。

それが大脳半球の発達レベルであったことを今回の結果は示している」と述べています。

つまり、「鳥脳(Birdbrain)」を持っていたか否かで、鳥類の命運が決まったのかもしれません。

「鳥脳」をもつ者が、恐竜を絶滅させた隕石から生き延びたという研究
(画像=イクチオルニスの骨格図 / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

初期鳥類の頭蓋骨を探し出すことは、何世紀もわたって古生物学者の難題となっています。

鳥類の骨格は脆いことで知られており、3次元的に保存されている化石はめったに見つかりません。

しかし、初期鳥類の脳がどのようなものであったかを理解するためには、保存状態のよい頭蓋骨がどうしても必要なのです。

同チームのジュリア・クラーク氏は「その意味で、今回のイクチオルニスの頭蓋骨はたいへん貴重であり、鳥類の脳の発達を理解する手がかりとなるでしょう」と話しています。

危機を乗り越えるには、空を飛べるだけでなく、賢さが必要だったのかもしれません。


参考文献

Unraveling a Mystery: Bird Brains Left Other Dinosaurs Behind

元論文

Bird neurocranial and body mass evolution across the end-Cretaceous mass extinction: The avian brain shape left other dinosaurs behind


提供元・ナゾロジー

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