ペンギンは数多の鳥類の中でもっとも泳ぎの得意な鳥であり、コウテイペンギンは長いと30分以上も潜水を続けることができます。
このペンギンの驚異的な潜水能力は、血中ヘモグロビンが他の生き物より多いためだと言われています。
科学雑誌『PNAS』に発表された新しい研究は、そんなペンギンのヘモグロビンについて調査を行い、それが潜水に適した形に進化しているということを報告しています。
ペンギンは見た目だけでなく、血液さえも潜水に適したものへと進化させていたようです。
目次
海に潜るために進化した鳥
2つの古代のヘモグロビンの比較
海に潜るために進化した鳥
ペンギンは5000万年以上前、水辺に住み海中の生物を捕食するために、潜ることに特化していきました。
水かきのある足、ヒレのような翼、特殊な羽毛は、全て彼らが水中で自由に動き回るために進化した形です。
しかし、ネブラスカ大学リンカーン校の研究チームによると、ペンギンの進化は見た目だけではなく、その血液にもあるといいます。
ペンギンの血液は、陸上に生息する鳥と比較して、ヘモグロビンが多いことが知られています。
ヘモグロビンは赤血球の中にある赤色のタンパク質のことで、酸素分子と結びつく性質があり、これにより体中に酸素を届ける働きをしています。
ペンギンは人生の半分近い時間を水中に潜って暮らしていて、全鳥類の中でもっとも深く潜るというコウテイペンギンは30分以上も潜水していることが可能です。
これは単にヘモグロビンが多いというだけでなく、彼らのヘモグロビンが潜水に適したものに進化している可能性を示しています。
ただ、ヘモグロビンがどう進化を遂げたのかという点は、潜水しない鳥などとの比較研究がないため未解決の問題でした。
そこで、今回の研究チームはそんなペンギンのヘモグロビンの進化について調査をおこなったのです。
2つの古代のヘモグロビンの比較
この調査のために、研究チームは2つの古代のヘモグロビンの遺伝的な違いを明らかにすることにしました。
1つは、約2000万年前に分化した、ペンギンたちの共通の祖先です。
もう1つは、約6000万年前、ペンギンの共通の祖先と近縁でありながら、潜水するようにはならなかったアホウドリなどの海鳥の系統です。
考え方としては単純で、この2つのヘモグロビンの違いは、ペンギンが潜水をおこなうために必要となった進化の痕跡と捉えることができます。
もちろん、現代には存在しない2つの古いヘモグロビン遺伝子を比較することは、簡単なことではありません。
研究チームは、現代の鳥類のヘモグロビン遺伝子配列を考慮したモデルを作り、そこから2つの対応する配列を推定して復元させました。
そして、この復元された配列を大腸菌につなぎ合わせて、パフォーマンスを評価する実験を行ったのです。
その結果、チームはペンギンの祖先のヘモグロビンは、潜水しない鳥類の祖先が血中に持つものに比べて、容易に酸素を捕獲できるという事実を発見したのです。
酸素に対するその強い親和性は、肺から余すことなく酸素を取り込みます。これは水中潜航時に、一呼吸で十分な酸素を取り込むために非常に重要だったと考えられます。
酸素と親和性の高いヘモグロビンは、強力な磁石のように酸素と結合するため、肺から酸素を引き抜くとき有効に働きますが、そのせいで細胞へ酸素を受け渡すことが困難になります。
これはちょっと困った問題のようにも見えますが、実際はこれもペンギンの潜水能力が優れいている事実と関連づいています。
ヘモグロビンが酸素と結びつくか、手放すかという問題は血中の酸素濃度と二酸化炭素濃度によって決定されています。
ペンギンの祖先のヘモグロビンは周囲のpH(酸性度)に対して、より敏感で酸性度の上昇に応じて酸素をより放出しやすくなっていました。
これはつまり、体内でより酸素を必要としている、一生懸命働いている組織に対して優先的により多くの酸素を与えるように機能します。
「それは本当に美しいシステムです」研究チームの1人、ネブラスカ大学の生物学者アンソニー・シニョーレ氏はそのように語っています。
pHがたとえば0.2単位で低下すると、ペンギンのヘモグロビンは、陸上の動物よりも働きが低下します。
ペンギンは、海へ出たとき利用可能な酸素を最大限に活かせるように、血中のヘモグロビンが他の生物とは異なる進化を遂げていました。
陸ではなんだかぼんやりして見えるペンギンですが、その血液には驚くべきスイマーとしての能力が潜んでいるのです。
参考文献
Waiting to exhale: Penguin hemoglobin evolved to meet oxygen demands of diving(UNIVERSITY OF NEBRASKA-LINCOLN)
元論文
Evolved increases in hemoglobin-oxygen affinity and the Bohr effect coincided with the aquatic specialization of penguins
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功