およそ50年前に、野生では絶滅したと思われていた「ニューギニアン・シンギング・ドッグ」が、原産地のニューギニア高地で生き残っていたことが判明しました。

現生するニューギニアン・シンギング・ドッグは、基本的にすべて人の手で保護・繁殖されたもので、数百頭ほどが残っています。

8月31日付けで『PNAS』に掲載された研究では、発見された野生種と保護種は、長年の生息環境の違いで、遺伝子的にわずかな違いが見られたとのことです。

野生種は、保護種と差別化を図るため、「ハイランド・ワイルド・ドッグ」と呼ばれています。

研究は、アメリカ国立ヒトゲノム研究所、インドネシア・センデラワシ大学により報告されました。

目次
世界唯一の「歌う犬」?
ついに発見!野生種は遺伝子が違っていた?

世界唯一の「歌う犬」?

ニューギニアン・シンギング・ドッグが、学術的に初めて調査されたのは1897年のことです。

名前が示すように、独特な発声方法で鳴くことから「歌う犬」と呼ばれています。発声の個体差がかなり激しいため、数十頭で集まって吠えると、音程が違って合唱のように聞こえるとか。

単体でも普通の犬にはないサイレンのような鳴き声が聞けます。

また、ニューギニアン・シンギング・ドッグは、犬の中でも非常に古い犬種であり、オオカミと家畜化された犬の間に位置する「ミッシングリンク」とも言われます。

しかし、初めての調査依頼、数が著しく減少し、1970年代以降、野生で確認された例はありません。

今日見られるのは、ニューギニアからアメリカに持ち込まれた8頭のシンギング・ドッグを繁殖させたもので、全部で300頭くらい現存しています。

ついに発見!野生種は遺伝子が違っていた?

野生では完全に絶滅したと考えられていましたが、2016年に、ニューギニア島の最高峰である「プンチャック・ジャヤ山」の高地で、15頭の野生種(ハイランド・ワイルド・ドッグ)が確認されたのです。

その見た目は、驚くほどニューギニアン・シンギング・ドッグと似ていました。

サイレンのような遠吠え。絶滅したはずの「ニューギニアの歌う犬」が約50年ぶりに野生で確認される
(画像=2016年に確認された野生種/Credit: New Guinea Highland Wild Dog Foundation、『ナゾロジー』より引用)

続く2018年には、3頭の野生種から血液サンプルを採取し、飼育下のニューギニアン・シンギング・ドッグとDNAを比較しました。

その結果、2種は遺伝子的にもほぼ一致していたのですが、長期間にわたり異なる環境で暮らしていたことから、わずかなズレも見られたとのこと。

研究主任のハイディ・パーカー博士によると、これは保護種が近親交配で増えたことが主な原因であるとのことです。そのせいで、保護種の遺伝的な多様性は失われており、それが種の存続を脅かしていました。

サイレンのような遠吠え。絶滅したはずの「ニューギニアの歌う犬」が約50年ぶりに野生で確認される
(画像=保護下で生育されたシンギング・ドッグ/Credit: Wikimedia Commons、『ナゾロジー』より引用)

ところが、今回見つかった野生種には保護種が失ったゲノム配列がまだ含まれていたため、2種を交配させることで安定した種の存続が期待できるそうです。

ただ最初のうちは、ニューギニアン・シンギング・ドッグも野生種のワイルドさに面食らうかもしれませんね。


参考文献

zmescience

phys


提供元・ナゾロジー

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