総人口・総GDPより、一人あたりの豊かさこそが最重要

ここからは意見のわかれるところであり、あくまで筆者の個人的な感想にすぎないが私見を述べたいと思う。

さて、上述した通りたとえ人口減少への適応ができたとしても、少なくともしばらくの間は人口は減り続けることはほぼ確定的だ。そうなれば、総人口が減ることで総GDPも減少は免れない。革新的なビジネスや技術で我が国に強力に世界の富を集めることができれば話は別だが、起きるかどうか分からないものをあてにするより、確実に来る人口減少を想定して「トータルのGDPはこれから減る」を考える方が現実的だろう。

さて、ここで「はたしてそれは問題か?」を考える必要がある。個人的にはそれが問題の本質ではない気がしている。というのも、総人口が少なくとも豊かさを享受している国家はたくさんあるからである。

世界銀行のデータに依ると、スイスの人口は863.7万 (2020年)である。これは2021年時点の大阪府より少ない。だが、IMFの2021年データではスイスの一人あたりのGDPは93,720USDで、世界第3位。我が国にも、スイスの高級ファッション、食品、高級時計などの商品にあふれている。

スイスに限らず、欧州の小国には一人あたりのGDPが非常に豊かな国はいくつもある。逆に言えば、総GDPが大きくても一人当たりのGDPが小さければ、豊かさを実感できないのではないだろうか。

問題は今の日本は人口が少なくとも、金融やITなど省人力で大きな付加価値を生み出す分野が多くはないということである。

ゲームやアニメ、マンガといったサブカルはグローバルで健闘しているものの、マネーの動くダイナミクスさは金融やITには及ばない。つまり、大きなビジネスモデルの転換が起きなければ、1億人超の人口規模を活用した、人海戦術的なGDP創出頼みとなり、人口減少確定的な今、これからジリ貧になるということである。これからは付加価値の非常に大きな産業を生み出し続ける土壌ができるかどうかだろう。

未来のことは誰にも分からない。人口減少は永遠に続く地獄の一本道に思えてしまうが、良くも悪くも今から進む道は人類史上、未踏の地なのである。つまり、前例がないだけでどこかで下げ止まって反発して盛り返す可能性もある。

また現状の日本には、大きな付加価値を生み出す産業に乏しいといっても、日本人の基底能力や知恵は世界屈指の高さであり、必ず逆転するタイミングが訪れると信じている。いや、今を生きる我々はそうする必要がある。

「ピンチはチャンス」という言葉通り、我々は今試されている時が来ているのだ。後に「マスク氏の懸念したタイミングが新たなトレンドの起点だった」と言えるような未来を迎えられるように。

文・黒坂 岳央/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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