2022年度から全てのアパレルに強制導入される収益認識会計基準とは

不振アパレルの売上がなぜ増える?百貨店は?新収益認識基準はアパレルをこう変える!
(画像=LeoPatrizi/istock、『DCSオンライン』より引用)

オペレーションに詳しい人ならおわかりかと思うが、そもそもB2B向け売上基準は、その企業によってバラバラなのだ。日本の古い会計制度は「証左」といって、必ず売上を上げるときには伝票が必要になる。参考までにこれも記載すると、

  1. 出荷ベース:自社倉庫から出荷した時点で売上が立つ、出荷伝票
  2. 着荷ベース:相手倉庫に入庫した時点で売上が立つ、受取伝票 
  3. 検収基準:相手が入庫した貨物を検品し良品として受け取った数だけを売上対象にする、検収伝票 となる。

しかし、例えば、この①の出荷ベースの売上は、企業会計をゆがめる時がある。例えば、よくあるのが決算末期に相手が必要ともしていない物量の大量の在庫を押し込み、一時的に売上・利益を上げる方法だ。私が若かった頃は、手がけたアパレル企業に対して、絶対に「押し込み売上の水増しはやめろ」と念を押したのにもかかわらず、某役員がそれを強行して大げんかしたことがある。

当然、翌月/翌期には、「こんなに大量にいりません」と返品の山が帰ってくる。つまり、この手のアパレル企業は、決算期はいつも神風が吹き、翌期、または、翌々期には大返品となる。大抵はバランスシート(BS)に残して損益計算書を汚さないでおくため、現金がどんどん減ってゆくわけだ。百貨店向けアパレルはこうして死に近づいてゆく。
反対にオンワード樫山がナンバーワンとして君臨し続けてきたのは、在庫管理を徹底しすぎるほどやっていたからではないかと推測される。その証拠に、同社の商品や仕掛かり品など余剰在庫に関するものをひとまとめにし、売上高比率で経年で見ると、驚くべきことに、きれいに同じ利率が並ぶのである。また、私が韓国でアパレル企業再建の仕事をしていたとき、多くのアパレルが韓国が不況に入ったとき倒産したが、在庫評価をしっかりしていた企業は残っていた。無敵のThe Northface @ KOREA である

不振アパレルの売上がなぜ増える?百貨店は?新収益認識基準はアパレルをこう変える!
(画像=オンワード樫山BS分析 (流動資産に占める在庫水準割合が一定であることに注目)、『DCSオンライン』より引用)

どこで真の売上が上がっているのか?

さてここで問題にしたいのが、「果たして、どこで本当の売上が上がっているのか」ということだ。そこで、「収益認識基準会計」である。

「収益認識基準会計」というのは、文字通り、どこで売上が現実に立っているのかを認識するという意味だ。

百貨店の場合、消化取引(いわゆる消化仕入れ)以外に、完全買取(世界のトップメゾンのように、ベンダー側が強い場合わずかに残っている)と委託仕入(一旦会計上は仕入計上するが「委託販売」なので、売れ残れば自由に返品できる)があるが、後者2つはいずれも今ではごくわずかになっている。したがって百貨店と取引をするアパレル企業の多くは消化取引が一般的だ。この消化取引というのは、百貨店の売場の中で、実際に消費者が商品を買った時点で売上を立てているわけだから、売上は下代(仕入れ価格)でなく上代(販売価格)であるべきだ。そして、百貨店には家賃を払うのが新しい(というか、あるべき)会計処理となる。これが、「収益認識基準会計」である。

ここで勘の良い方はおわかりと思うが、アパレル企業の売上が下代ベースから上代ベースに変わった場合、百貨店が従来通り上代ベースで売上を計上してしまうと、日本のGDPがダブルカウントで上がってしまう。したがって、百貨店の売上は家賃ベースの純売上となる可能性が高く、これは公認会計士とも確認した。

つまり、(これは、現時点での可能性ではあるが)日本の百貨店の売上が「家賃代」、具体的に言うと、日本の百貨店市場が約5億円から1億6000万円〜2億円程度へと、従来の30%に縮んでしまう可能性について、誰も指摘していないのが気になっている。

実際、9000億円超の売上を誇る三越伊勢丹HDは、22年3月期より収益認識に関する会計基準を適用しており、同期第3四半期決算は売上高が3146億円まで減少、通期予想では4250億円となっている。なお、同会計基準を適用しなかった場合の通期の売上高予想は9230億円となっている(適用前比で54%減)。このように考えると、一時盛んに報道された「売上40%ダウン」などという「見出し報道」も誤解を助長するものとして、しっかりした検証が必要だろう。

いずれにせよ、百貨店アパレルと百貨店は、従来の売上基準による分析に加え、こうした事情をしっかり鑑み、こうした数字のマジックを読み取る分析力はいよいよ高まっている。


新しく発足する「DX研究会」ですが、おかげさまで満席となりましたので本年度は打ち切らせて頂きます。本研究会にはダイヤモンド・リテイルメディアさんが協力頂き、半年後の研究成果を私が監修する中で世に発表することになろうかと思います。ご期待ください

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

不振アパレルの売上がなぜ増える?百貨店は?新収益認識基準はアパレルをこう変える!
(画像=『DCSオンライン』より引用)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト

提供元・DCSオンライン

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