篠田氏が私の主張だといわれるものは虚構である
そこで書いたのが、『ウクライナ:常識の10の嘘と怖い落とし穴』で、篠田・橋下両氏に敬意を払いつつも、日本とフランスで官僚としての訓練を受け、ソ連崩壊の時期には当時の通商産業省の指示で、パリからヨーロッパ諸国の動向の調査やある種の工作もやり、ヨーロッパ史や憲法問題についても何冊かの著書も書いた立場から、篠田先生や橋下氏が論じているような問題の一部についての私の見解を書いた。
そして、クリントン氏がおそらくこうだろうと推測されていたことについて、自分の言葉で語ったのでそれを批判した『クリントンが戦争覚悟でNATO拡大と開き直り』を書いたのである。
そうしたら、篠田先生が『八幡和郎氏の印象操作術に首を傾げる』とかいう記事を書かれたので、有名な先生の批判にまじめに反論しようと読み始めたのだが、最初にタイトルにある私の書いたこととは関係ない話が続いたあと、私の書いたものについて触れた最初の数行だけ見て、こんな頓珍漢な文章に反論なんか公の場でやってられないと反論記事を書くことを止めたのである。
私が書いていることに対して篠田先生のような高名な先生から反対論をいただいたら、反論したいし、少しくらいは私の真意を誤解している部分があってもそれを指摘するが、最初から最後まで私が書いてないことを珍妙な推理をしてこういっていると批判した文章に付き合えないのである。
まず、篠田先生は「八幡氏にとっては、NATO東方拡大がウクライナにおける戦争の原因であることは既に確定済の事実なので」とされるが、そんなこと書いたことはない。むしろ、そうでない、あるいは、それほど重要な要素でないと思う人が多く、私も確信がもてなかったなかで、クリントン氏が経緯の説明を踏み込んでしたので書いたもので、そういう趣旨は分かりそうなものだ。
篠田先生は続いて、「それに反する意見は全て「開き直り」にすぎない、という印象を作り出したいようだ。」というのだが、多くの日本人が「NATO東方拡大がウクライナにおける戦争の原因」でなくクリントンさんはそれが「まさか戦争になるとは思っていなかったはず」だと思っているのに、いや危ないと警告してくれた人も多かったが、そうなったらロシアの責任だから仕方ないという考え方だったような趣旨をクリントンが書いたからそれなら、予想もしなかったのでなく、仕方ないと思っていたのだから「開き直り」と言われても仕方ないだろうとタイトルにしたのである。意を尽くしてないのはタイトルの字数制限が故である。
さらに、「だが実際には、依然として外交専門家の間ではNATO東方拡大擁護派が大勢を占めている。ミアシャイマーのような有力な批判者もいるが、全体としてはまだ異端である。異端だから間違っているとは言えないのは当然だが、異端の立場をとらないと「開き直り」になるというのも、おかしな話である」と篠田先生はいう。
たしかに、英米系の外交専門家に限定すればそうかもしれないが、仏独だって東方拡大、とくにウクライナまでとなると懐疑的で一貫してきた。そこで、アメリカの要求や東欧諸国の希望もあるので、ロシアの顔色見ながら大事には至らなさそうなタイミングでの拡大を渋々受けいれつつウクライナなどの加盟には反対してきたのである。
まして、NATO加盟国以外(それが世界の国の大半だと思うが)を含めた世界全体で、篠田先生のそんな意見が大勢だったわけないだろうというのは明らかだろう。これが自然科学なら欧米の大勢と世界の大勢があまりずれることはないが、社会科学では欧米の大勢が世界を代表するというのは無茶だと思うが違うだろうか。
というわけで、私が論じたことをこれほど曲解するというか、出来の悪いアバターに自由気ままに語らせられたものを前提に論争なんぞ成立するわけもないので、そのあとの議論も私の名前など消してせいぜい「こう言う意見もあるかもしれないが」ということで、論じていただきたいと思うし、どこが曲がっているか国語の添削をする気もないというわけだ。
とはいうものの、篠田先生の知識なり主張は英米流の国際政治学の専門家としてそれなりの見識を示しておられると思うわけで、橋下氏や私、さらには故人である芦部信喜先生などを牽強付会で出汁に使ったタイトルなど掲げて人目を引くのは、せっかくの専門家としての値打ちが下がると老婆心ながら心配するのである。
文・八幡 和郎/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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