約6600万年前、メキシコのユカタン半島に巨大な小惑星が落下し恐竜の時代を終わらせました。
この大量絶滅を生き延びた種の1つがワニですが、彼らは約2億年前のジュラ紀からほとんどその姿を変化させていません。
オンラインジャーナル『NatureCommunications Biology』に1月7日に掲載された新しい研究は、このワニが長期間姿を変化させず、さらに大量絶滅さえ生き延びた理由は、彼らの進化が十分な汎用性と効率性を備えた形に到達していたためだ報告しています。
ワニはある種の、進化の最終形態なのかもしれません。
目次
進化の遅いワニの謎
サバイバーとしての、ワニの驚くべき能力
進化の遅いワニの謎
恐竜は絶滅してしまいましたが、6600万年前の大量絶滅を生き延びた種というのは、現在の地球を見れば数多く存在したことがわかります。
しかし、恐竜の系統から続くトカゲにしろ、そこから派生した種である鳥類にしろ、この6600万年の間に数千種もの多様な進化を遂げています。
ところが、ワニという種はそれよりはるか昔、約2億年前のジュラ紀の頃から姿がほとんど変化していません。
先史時代には、恐竜と同じくらい巨大なもの、草食のもの、非常に足の速いもの、海に住むものなど、現在は残っていない種類のワニもいましたが、現存するワニの種類は、たったの24種です。
これは先にあげた鳥類などと比較するとあまりにも少ない数です。これはワニの進化にある特徴が見られることを示しています。
今回の研究は、このワニの進化パターンが「断続平衡説」という進化論を説明していると主張しています。
ダーウィン以降、生物学では進化は連続的にゆっくりと均一の速度で起きていく(漸進的)と考えられてきました。
これを系統漸進説といいます。
しかし、一方で化石などではそのような連続的な変化を見つけることができません。生き物は突然大きく変化しているように見えるのです。
こうした問題を、系統漸進説ではミッシングリンクと呼び、単に間をつなげる化石が見つかっていないだけだと考えています。
これに対して「断続平衡説」は、生物がある環境変化などの時代の区切りにおいて、突発的に大きく進化し、ある程度形が整うと、その後はほとんど変化しなくなるという考え方を提唱しています。
断続平衡説では、一般的に進化の速度は遅くなります。しかし、環境が変化した時、急速な進化の枝分かれが起こります。
今回の研究では、特に気候が温暖になると進化が加速し、身体が大きくなることを示唆しています。
ブリストル大学地理科学部の研究者マックス・ストックデール博士は、次のように述べています。
「私たちは機械学習アルゴリズムを使用して、進化速度の推定を行いました。この研究では、化石から体のサイズを測定し比較しています。これは動物の成長速度、必要な餌の量、個体数、絶滅の可能性と相互作用する重要なものです」
こうした調査と分析の結果、ワニの非常に遅い進化速度が明らかになりました。
ワニは体温調節ができず、環境からの暖かさを必要とするため、一般的に温かい条件でよく成長します。
恐竜時代の気候は、現在よりずっと温暖でした。それがこの時代にワニが非常に多様化した理由と考えられます。
一方、その後大量絶滅期のような変革の時代を乗り越えたにも関わらず、ワニはほとんど変化を見せていません。
それはワニがもはや変更の必要がないほど、非常に効率的で用途の広い理想的な形態に到達していたことを意味しています。
実際ワニは驚くほどさまざまな体の機能を持っていて、それが白亜紀の終わりに隕石の衝突を生き延びた理由の1つでもあると考えられるのです。
サバイバーとしての、ワニの驚くべき能力
ワニは「究極の生存者(サバイバー)」だと言われています。
彼らはほとんど形態を変化させることなく、恐竜時代の大量絶滅、その後2つの氷河期をも乗り越え、また人間を始めとしたあらゆる種からも絶滅の驚異にさらされることなく現在まで生き延びました。
ワニは酸素を保持する能力に優れており、最大1時間水中で息を止めていることができます。
普段は水中や水辺で生活していますが、必要とあらば驚くべき速度で陸上を動き回ることもでき、一般に地上を時速50km以上の速さで走ることができます。
体温を自ら調節することはできませんが、これは逆に言うと太陽からエネルギーを引き出すことができるので、鳥や哺乳類のような温血動物ほど多く食べる必要がないことを意味しています。
これが過酷な状況でも彼らが生き残るために有利に働いたと考えられ、この性質を変化させる必要はなかったのでしょう。
さらにワニは、完全な暗闇の中でも視界を保ち生活することができると知られています。
仲間との縄張り争いでは、非常に激しい戦いを繰り広げ、足を引き裂かれることもありますが、ワニは病原菌の多い環境で怪我をしても、感染症に罹ることはほとんどなく、ひどい怪我でも素早く治癒してしまいます。
ある意味、生物の完全体に到達しているのがワニと言えるのかもしれません。
研究者たちは今後、先史時代に絶滅してしまったワニと、生き残ったワニにどのような要因の違いがあったかを明らかにしていきたいと語っています。
たとえ100日後に小惑星が地球に落ちて世界が滅んだとしても、ワニは平然と生き延びるかもしれません。
提供元・ナゾロジー
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