「マイダン革命」はアメリカが仕掛けたのか

もう一つは、2014年のウクライナのマイダン革命の評価です。これは親露派のヤヌコーヴィチ政権が反政府デモで倒れた事件ですが、これをプーチンは「ファシストのクーデタ」と断じてクリミアを攻撃し、併合しました。その後、東部のドンバス地方も攻撃しましたが、2015年のミンスク合意でウクライナと停戦しました。

これについては「アメリカの謀略だ」という見方もあります。当時のオバマ政権のヌーランド国務次官補が駐ウクライナのアメリカ大使に親米派の政権人事を命じた2014年1月の電話が盗聴され、今もYouTubeで公開されています。これは国務省も本物だと認め、ここで彼女が「首相に適任だ」と評価したヤツェニュクが首相に指名されました。

おもしろいのは、ヌーランドが電話で「Fuck the EU!」と言っていることです。これは政権打倒に協力しなかったEUを批判したものと思われますが、タカ派のアメリカとハト派のEUの姿勢の違いが出ています。この電話を盗聴したのはロシアの諜報機関といわれ、プーチンもこういうNATOの分裂を知っていたでしょう。

もちろんこれだけで「マイダン革命はアメリカの謀略だ」ということはできませんが、親露派の政権が倒れ、アメリカの望む親米派の政権ができたことは事実です。このように「民主勢力」を支援して反米政権を倒すのはアメリカの常套手段ですが、イラクでもアフガニスタンでも失敗しました。

NATOはプーチンの侵略を「誘惑」した?

その後もアメリカはウクライナに軍事顧問団を派遣し、ジャベリンなどの最新兵器を供与し、黒海でウクライナ海軍と共同演習をしましたが、ドイツはシュレーダー元首相がガスプロムの取締役になるなど、親露派の傾向を強めました。こういう情勢をみてプーチンは

  • アメリカはウクライナ軍を強化してドンバス地方を奪還するつもりだ
  • だがEUはパイプラインなどの既得権を守るためロシアとは戦えない
  • したがってウクライナを侵略してもNATOは反撃しない

と考えたのではないでしょうか。これはその情勢認識が正しければ、論理的には正しい判断でした。もちろん今回の侵略が国際法違反であることは明白ですが、プーチンに「キエフが3日で陥落する」と誤解させた責任は、西側にもあると思います。NATOがロシアを刺激したというより、その矛盾した態度がプーチンを「誘惑」したのかもしれない。

これは「ネオナチの陰謀」ではなく、「軍産複合体」やユダヤ金融資本が原因だという証拠もありません。クリントンは、アメリカ的デモクラシーを東欧にも拡大しようとしたオルブライト国務長官のような理想主義が最大の要因だったと述べています。

以上は荒っぽい論点の提示ですが、具体的な事実認識については、八幡さんと篠田さんの見解はそれほど違わないと思います。むしろそういう問題に優先順位をどうつけるかという価値観の違いでしょう。建設的な論争を望みたいと思います。

文・アゴラ編集部

文・アゴラ編集部/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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