水の確保が難しい地域では、海水を飲料水に変える「淡水化装置」が重宝されます。
特に、どこでも利用できる携帯型の淡水化装置は、離島や船で大いに役立つでしょう。
しかし、従来の装置は何度もフィルターを交換しなければならず、不便でした。
そこでアメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)の電子工学者ジョンヨン・ハン氏ら研究チームは、フィルターいらずの携帯型淡水化装置を開発しました。
ボタン1つで簡単に海水から飲み水を作り出せるのです。
研究の詳細は、2022年4月14日付の科学誌『Environmental Science and Technology』に掲載されています。
目次
フィルターありの携帯型淡水化装置はエネルギー効率が悪い
ボタン1つで動作する「フィルターなしの淡水化装置」
フィルターありの携帯型淡水化装置はエネルギー効率が悪い
市販されている淡水化装置の多くは、交換フィルターを用いて海水に含まれる粒子(塩分や細菌、ウイルス)を取り除きます。
しかし、海水がフィルターを通過するためには、高圧ポンプで強く押し出してもらわなければいけません。
そのため携帯用に小型化するのは難しいのです。
もちろん、いくつかの装置は既に小型化されていますが、ほとんどの場合、エネルギー効率が犠牲になっています。
たくさんのエネルギーを使って少量の飲料水しか得られないのです。
またフィルターを何度も交換しなければならず、遠隔地で利用できても、面倒で煩わしい部分が多かったようです。
では、これらの課題点を一気に解決することはできるでしょうか?
ハン氏ら研究チームは、フィルターに頼らない新しい携帯型淡水化装置を開発することにしました。
ボタン1つで動作する「フィルターなしの淡水化装置」
新しく開発された携帯型淡水化装置には、ハン氏らが10年以上前に開発した技術が利用されています。
その技術は、ICP(ion concentration polarization)と呼ばれており、フィルターを利用せずに、海水内の粒子を取り除くことが可能です。
ICPプロセスでは、水路(水の流れ)の上下に配置された膜に電圧をかけます。
膜がプラスまたはマイナスに帯電した粒子(塩分子、細菌、ウイルス)を引きよせて取り除き、第2の水路から排出するのです。
これにより、消費電力の小さい低圧ポンプでも、浮遊物質と溶解性物質の両方を除去できます。
そしてチームは、ICPと既存の技術を組み合わせて、エネルギー使用量をさらに抑えた携帯用淡水化装置の開発に成功。
装置は10kg未満であり、1時間あたり0.3リットルの飲料水を生成できます。
しかも1リットル当たりの消費電力はわずか20Wでした。
これは1時間保温の炊飯器と同じくらいの消費電力です。
実際に海岸で行われたテストでは、装置とつながったチューブを海水に投入してから30分で、コップ1杯ほどの飲料水が出てきました。
淡水化された飲料水は、世界保健機関(WHO)の水質ガイドラインをクリアしています。
世界中の多くの人が、この装置の実用化から益を得るはずです。
とはいえ現段階では、この装置をつくるために高価な材料を使用しなければいけません。
チームは「低コストの材料を使った同様のシステムが登場したらいいですね」と述べており、さらなる進展を見据えています。
参考文献
From seawater to drinking water, with the push of a button
元論文
Portable Seawater Desalination System for Generating Drinkable Water in Remote Locations
提供元・ナゾロジー
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