北海道大学の最新研究により、丸型のマリモの形成にかかわる因子が新たに特定されました。
マリモには、浮遊型・固着型・凝集型(丸型)の3つがありますが、丸型では「遊走子(zoospore、べん毛を持って運動する胞子)」という生殖細胞の産生量がきわめて少なかったとのことです。
遊走子の少なさが、丸い形状の維持に貢献していると見られます。
研究は『Aquatic Botany』に掲載されました。
目次
「丸いマリモ」がいるのは世界で2ヶ所だけ
丸型は「遊走子」が少ないため?
「丸いマリモ」がいるのは世界で2ヶ所だけ
マリモ(学名:Aegagropila linnaei)は、淡水性の緑藻で、糸状の繊維があつまって丸い集合体を作ります。
しかし、世界のマリモは、繊維が水中を漂う「浮遊型」と岩に堆積する「固着型」が主流で、凝集型(丸型)はほとんど見られません。
それが見られるのは北海道の阿寒湖、アイスランドのミーヴァトン湖の2ヵ所のみです。
北海道のマリモは、阿寒湖とその周辺地域のシンボル的存在であり、国の特別天然記念物にも指定されています。
しかし、ここ数十年にわたる森林破壊や環境汚染のため、阿寒湖のマリモは急激に減少し、保護対策もむなしく、個体数に回復の兆しは見られません。
研究チームは、阿寒湖のマリモが丸型になる生物学的理由を解明することで、繁殖や保護につながると考えました。
丸型は「遊走子」が少ないため?
幸運にも、マリモの3つの形態はすべて阿寒湖に存在します。
そこで研究チームは、2017〜18年の5月〜10月にかけて、湖内の5ヶ所で浮遊型・固着型・凝集型のマリモを採集しました。
その後、それぞれの形態ごとに繊維(糸状体)を50本取り出し、そこに含まれる遊走子を数えています。
結果、4本の鞭毛を持つ遊走子が、8月中旬〜9月上旬にかけて、凝集型と固着型でのみ産生されることが初確認されました。
一方で、遊走子の産生レベルはとても低く、とくに凝集型ではそれが顕著でした。
また、浮遊型には遊走子が見つかっていません。
マリモは、培養条件下でまれに2本の鞭毛を持つ遊走子をつくることが知られています。しかし、自然下で4本の鞭毛を持つ遊走子が(低レベルではあるものの)、夏季に規則的に産生されるのは初の事実です。
遊走子の産生はマリモの集合体をほどく性質があるため、遊走子の少なさが丸型の維持にかかわっていると見られます。
もちろん、マリモが丸くなる原因には、波の力や湖底の地形、そこを転がる動きなど、環境因子も重要です。
同チームは「遊走子はマリモの形成プロセスを理解する上で大きな糸口となる」とした上で、「ライフサイクルにおける遊走子の役割を理解することで、マリモの保護につなげていきたい」と述べています。
提供元・ナゾロジー
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