自国の通貨を信頼しない理由
ではなぜアルゼンチン人は自国の通貨ペソを信頼しないのであろうか、という疑問に答えて以下にそれを箇条書きにて説明しよう。
①常に高騰インフレというのが主要な理由だ。1945年から1975年までの年間のインフレは平均して20%だった。1975年から1985年は100%を上回っていた。1989年と1990年はそれぞれ3079%と2314%だった。(2018年5月13日付「ラ・バングアルディア」から引用)。
そして2010年から2019年は年平均31%。昨年のインフレは37%、今年は50%近くまで上昇することが既に予測されている。
②自国通貨ペソで預金していると、これだけの高騰インフレの前に預金の実質価値が下がることになる。それを回避するには米ドルを持つのが一番安全というわけだ。
2020年12月3日付「ドイチェ・ヴェレ」が2015年から2020年までの米1ドルのペソ対価を示している。2015年に1ドル対12.99ペソであったのが2020年には78.04ペソまで価値が下落しているのである。
そして今、2021年10月に入って1ドルは98.62ペソまで下落している。これからインフレがさらに上昇して行くにつれて対米ドルの前にペソはさらに値下がりすることになる。
このような事態を前にアルゼンチンの市民はペソへの信頼を失い米ドルをできるだけ貯めようとするのは当然の成り行きである。
外貨が常に不足している国
アルゼンチンの企業モリクセ(Morixe)社のイグナシオ・ノエル社長が地元紙「イ・プロフェシオナル」とのインタビューで「アルゼンチンは貧困者を生む工場だ」と述べている。
インタビューの中で彼が指摘しているのは、アルゼンチンは慢性的に外貨が常に不足しているということだ。
一般に外貨を稼ぐには輸出や外国からの投資である。輸出についてはこれまでのアルゼンチン政府は輸出に税金を設けたり規制を加えたりして商品の輸出競争力を削ぐ傾向にあるということ。そして外貨不足が理由で商品の外国からの輸入にも規制を設けようとする。例えば、ある商品の価格がインフレで上昇すると、それを抑えるべく輸出向けの商品を国内に向けさせて供給過剰を生んで市場で価格が下がるようにするといった常識では考えられないことをアルゼンチン政府はこれまでやって来たのである。しかも、輸出への取り組みに欠けて来たことから一般に生産コストが他国に比べ割高だ。
外国からの投資についてもアルゼンチンの高いインフレと金利の前に外国企業の投資への関心を削ぐ傾向にある。更に外貨が不足する傾向にあるのは重なる負債の返済でドルが必要になることである。
文・白石 和幸
文・白石 和幸/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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