お医者さんのシンボルが聴診器であるように、体内の異音はさまざまな病気のシグナルとして役立ちます。
そんな体内の異音の1つが、肺(気道)から聞こえる喘鳴(ぜんめい)ですが、これまでこの音がなぜ発生しているのかはわかっていませんでした。
2月24日にオープンアクセスジャーナル『Royal Society OpenScience』に掲載された新しい研究は、気道から喘鳴音が発生するメカニズムを明らかにし、モデル化することに成功したと報告しています。
研究よると、喘鳴音は飛行機の翼が破壊されるのと同じような、かなり激しい共振現象だといいます。
呼吸が苦しくなったときの謎の異音
聴診器を使った音による診断は、非常に安価で手軽に利用できるため医者の必須ツールとなっています。
喘鳴は呼吸するときヒューヒュー、ゼーゼーと異音がする症状で、世界人口の4分の1に見られるといいます。
これは非常に多くの症状と関連していて、ほとんどは風邪や軽度のアレルギーですが、慢性的な場合には喘息や肺気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、あるいは肺がんなど深刻な症状である場合があります。
喘鳴は聴診器がなくても聞こえる場合が多く、主に気道が狭くなることで起こっている考えられていますが、喘鳴音がなぜ発生するのか実はまだよくわかっていません。
このため、多様な病状の何と関連づいているか判断することも、現状では非常に困難なのです。
「喘鳴に関連する音は何世紀にもわたって診断に利用されてきましたが、原因となる物理的メカニズムは十分に理解されていません。そのため喘鳴がいつ発生するか予測するモデルも現在はないのです」
今回の研究の筆頭著者であるケンブリッジ大学工学部のアラステア・グレゴリー博士はそのように説明しています。
研究の共著者は、同じくケンブリッジ大学工学部で音響研究をしているアヌラグ・アガーワル博士です。
今回の研究は、実は医学の研究者ではなく、工学部の研究者が発表しているのです。
アガーワル博士は数年前、夜寝ているときに初めて喘鳴の症状を体験したといいます。
このとき彼は、体がこんな音を立てるのはどういうメカニズムなんだろうと興味を持ちましたが、数日後症状がかなり悪化してそれどころではなくなりました。
アガーワル博士の患った症状はおそらくダニアレルギーで抗ヒスタミン剤でなんとか改善されました。
彼はこのことをきっかけに呼吸器内科の医師と話をして、喘鳴の原因となるメカニズムが実はよくわかっていないということを知ったのです。
こうして音響学の方面から、喘鳴の物理的メカニズムを探る研究が始まったのです。