甲殻類最強の「はさむ力」を誇るヤシガニのハサミの秘密が明らかになりました。
物質・材料研究機構(NIMS)は、沖縄美ら島財団総合研究センターと共同で、ハサミの構造を分析。
その中で、ハサミが鋼鉄と同等の硬さであること、硬い層と軟らかい層を重ねた複合構造であることなどが判明しました。
また、内部構造の3D上での視覚化にも初成功しています。
研究は、4月28日付けで『Materials & Design』に掲載されました。
ハサミの強さは「剛と柔」の組み合わせに秘密があった!
ヤシガニは陸上最大級の甲殻類で、インド太平洋の熱帯〜亜熱帯域に、日本では沖縄周辺に生息します。
貝殻を失くす方向に進化したため、体自体が硬い甲羅で覆われており、とくにハサミの殻が頑丈なことで有名です。
体重あたりのはさむ力は自重の90倍以上と生物最強クラス。
既知の最大個体である4キロのヤシガニでは、はさむ力が360キロに達し、ライオンの噛む力に匹敵します。

その一方で、なぜ軽量なハサミがこれだけの力に耐えられるのか、まったく分かっていませんでした。
そこで研究チームは、沖縄で捕まえた全長29.5センチ、体重1.07キロのヤシガニを対象に、光学顕微鏡を用いてハサミの構造を分析。
すると、ハサミの表面はクチクラ(最外層を覆う丈夫な膜)に覆われていましたが、ハサミの内部は、表面側から外クチクラ・中間層・内クチクラの三層構造となっていました。

厚さ0.25ミリの外クチクラでは、高さ約2.3マイクロメートルの薄くて硬い層が100枚ほど重なっていました。
外クチクラの強度は約250HVで、鋼鉄材料と同じレベルです。
また、カルシウムが豊富な外クチクラは、各層が密に重なることで石灰化され、これが鋼鉄並みの硬さを可能にしていました。
ところが、中間層を境に硬さがガラッと変わり、厚さ2.21ミリの内クチクラでは約50〜60HVでした。
内クチクラは炭素が豊富な多孔質層であり、クッションのような役割を果たしていました。
つまり、ヤシガニのハサミは、薄い硬質層と厚いクッション層という「剛」と「柔」の組み合わせにより、頑丈さと軽量性を実現していたのです。

こうした硬度差を活かした物の代表に「日本刀」がありますが、ヤシガニのハサミの構造は日本刀よりずっと複雑だそう。
しかし、今回の結果は、軽量かつ頑丈な材料開発への応用が期待できます。
一般に、人工材料はむやみに硬くすると壊れやすくなり、脆さをカバーするために重くなったりします。
軽量でありながら強靭な材料を作る鍵は、ヤシガニに隠されているかもしれません。
参考文献
めちゃくちゃ硬い ! 『ヤシガニ』のハサミの驚くべき内部構造(物質・材料研究機構)
元論文
Three-dimensional microstructure of robust claw of coconut crab, one of the largest terrestrial crustaceans
提供元・ナゾロジー
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