他のエネルギー源ではどうか
太陽光以外の再生可能エネルギー、例えば、風力や蓄電池利用ではどうか。
風力発電の割合が少ない時は、風力発電の出力変動を火力で補うことが可能で、風が吹いている時には火力を止めて、CO2の排出を減らせる。しかし、発電割合が10%を超える規模に拡大した状態では、太陽光と同様、火力発電の経営問題に至り、火力が維持できなくなって結果として風が止まった時の補充電源が得られず、風力自身が社会インフラを担うことができなくなる。
蓄電池利用の場合も、離島の電源設備のように規模が小さければ、太陽光や風力に併設して島の電源として社会インフラとなりうる。しかし、それを国レベルの大規模な電源に拡大しようとすると、大量の蓄電池確保が必要となり、原料のリチウムやコバルトを世界中から調達して来なければならず、同じ目的を持つ世界の国々との争奪戦を勝ち抜き、高い買い物をして、資源採掘国の環境を破壊するような事態も発生させることになった上でないと、必要とする蓄電池を確保することはできない。
すなわち、いずれも、「合成の誤謬」の真っただ中にいるわけである。
経済学者に指摘してもらいたいこと
以上述べてきたように、(不安定)再生可能エネルギー(太陽光・風力)の電源は大規模利用には限度があり、2050年カーボンニュートラル・脱炭素化などの目的のために規模を大きくしようとすればするほど、電力系統の成立性を損ない、需要と供給のバランスを悪化させて大規模停電の発生頻度を高めることになる。
また稼働率が原理的に13%にしかならない(曇・雨・夜に発電できないので)太陽光発電設備を、総発電設備容量の40%以上(1億800万/2億6000万=0.42)も建設するコストや、補充電源用の火力の維持費用のため、電気料金が大幅に高いものになってしまう。このような問題は、工業・産業の技術論というよりも、経済学の領域の社会の効率性の問題であろうと考えられる。
これまで、再エネの成立性・課題・影響・脱炭素化などの議論は、新聞等のマスコミでも、技術的な問題として技術欄・産業欄に掲載されることが多く、技術論に関心のない読者は読み飛ばしてしまって提供された情報が浸透していかない、という傾向にあったと思われる。
しかし、実際には、再エネを大規模に導入するということは、その成立性・効率性・社会的影響という点で、本質的に経済学の問題であり、マスコミの経済欄・社会欄・文化欄で取り扱ってしかるべき問題であろう。
上記2と3の項で記した「合成の誤謬」の例では、起こるであろう事象を定性的に筋立てして現象を説明したが、これらを経済学的・社会学的に定量的に評価して、エネルギー源として、どのくらいの規模の投資が必要で、どのくらいの資産が失われ、どのくらいの停電が発生するか、それによりどのくらいの国力喪失が起き、どのくらい国民の貧困化に影響するか、等を経済学者・社会学者に指摘してもらう必要があると考える。
それらを、マスコミの経済・社会・文化のページに掲載して、技術論になじまない読者にも関心を持って読んでもらえるように解説してもらいたいものだ。
<注記>
(*1)資源エネルギー庁 エネルギー基本計画(素案)の概要(P12、19)令和3年7月21日
(*2)太陽光発電設備量1億800万kWは、2021年7月小泉環境相(当時)の発表数字。
(*3)日本の発電設備総容量(2015年)は2億6000万kWであり、内訳は、火力59%(15300万kW)、原子力16%(4100万kW)、水力19%(4900万kW)、太陽光等6%(1500万kW)であった。2030年までに太陽光が1億800万kWに増加する一方、火力は大幅に削減されるが、火力の設備容量の目標値が公表されていないので、以下のように推定した。
表1にあるように、火力の発電量を2019年76%から2030年41%に減らすので、少なくとも、発電設備容量も41/76=0.54以下になると推定される。2015年の火力設備容量を54%に減らすと、15300 × 0.54=8300万kWである。
原子力、水力はCO2を発生しないので、2015年当時の設備が維持されると考えると、それぞれ4100万kW、4900万kWである。従って、いわゆる安定電源設備合計は、8300万+4100万+4900万=1億7300万kWとなる(ちなみに、2030年の風力設備目標は、洋上:1000万kW、陸上:約2000万(⇐1800万~2600万を丸めた)kWと設定されているので、太陽光・風力も含めた発電設備総容量(2030年)はおよそ1億7300万+1億800万+3000万=3億1100万kWに増えていることになる)。
文・櫻井 三紀夫/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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