最近のVR技術は目覚ましい進歩を遂げており、私たちに一層高い没入感を与えてくれます。
そしてアメリカ・カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)とフューチャー・インターフェース・グループに所属するビビアン・シェン氏ら研究チームは、VRに新しい触覚を追加したと報告しています。
超音波を用いて、触れることなく、唇や歯、舌に本物そっくりの触覚を与えることに成功したのです。
これはつまり、VRのキス体験が可能になったと考えてもいいでしょう。
論文は、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションの国際会議「CHI 2022」のオンラインページにて、2022年4月29日付で発表されています。
超音波で触覚を刺激する最先端技術
近年、皮膚感覚を刺激する「ハプティクス(触覚技術)」にますます注目が集まっています。
例えば、ゲームのコントローラーがプレイに応して振動するのもハプティクスの1つです。
視覚や聴覚以外の感覚を追加することで、没入感を高めてくれるのです。
そしてこの分野の最新技術には、デバイスの接触なしで触覚を生み出す「空中ハプティクス」があります。
複数の超音波を操作し、空中のある1点で波が干渉して強まるようにします。
その結果、焦点部分には触覚が発生するのです。
これをうまく利用するなら、空中で物体を触っているような感覚を味わえるでしょう。
また空中ハプティクスはVR技術との相性が非常に良く、よりリアルな体験を生み出すのに役立ちます。
この分野に注目したシェン氏ら研究チームは、新しい刺激を生み出すことにしました。
従来の刺激対象だった手や指ではなく、口に刺激を与えることにしたのです。
「唇や歯、舌に刺激を与える技術」でVRキスできるかも!?
空中ハプティクスの刺激対象として「口」が選ばれた理由について、研究チームは次のように述べています。
「口は、機械受容器(触覚刺激を生み出す部分)の感度と密度が、指先に次いで高くなっています。
ところが、VRやARの刺激対象としては、ほとんど見過ごされてきました」
つまり、口は指に次いで敏感な部分であり、口の触覚を再現するなら、VRの没入感はさらに高まるというのです。
開発されたVRデバイスは、従来のVRゴーグルの下に超音波アレイが装備されています。
ここから超音波が口や歯、舌に飛ばされ、触覚を生み出すのです。
デバイス自体が口に触れないため衛生面でも安心ですし、デバイスも薄いので、従来の使用感を維持したまま、新たな触覚を追加できています。
テストでは、「雨や泥はね、クモの巣などが口に当たる」「歯を磨く」「水を飲む」といった日常体験をリアルに再現できました。
また「虫が口元を這いずり回る」といった恐怖体験も可能。
技術内容を考えると、明確に言及されていませんが、「VRでキスする」ことすら可能だと言えるでしょう。
商品化を熱烈に願うVRユーザーたちも多そうです。今後の展開に期待したいですね。
参考文献
Mouth Haptics in VR using a Headset Ultrasound Phased Array
元論文
Mouth Haptics in VR using a Headset Ultrasound Phased Array
提供元・ナゾロジー
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