イルカといえば海のイメージが強いですが、南米やアジアには河川を泳ぐ淡水イルカが存在します。
ボリビアカワイルカ(Inia geoffrensis boliviensis)は、その数少ない淡水グループの一つで、かなり発見の困難なイルカです。
本種の個体数は、河川全体の健全性を示す指標となるため、研究者たちも注目していますが、たいていの場合、ヒレや尾を確認できるだけだと言います。
しかし2021年8月、ボリビアのティジャムチ(Tijamuchi )川にて、2頭のボリビアカワイルカが水面に顔を出しているのが目撃されたのです。
しかも、驚きはそれだけにとどまりませんでした。
なんと2頭のイルカは、口先に川の頂点捕食者であるアナコンダを咥えて、まるでオモチャのように扱っていたのです。
一体何をしていたのでしょうか?
研究の詳細は、2022年4月12日付で科学雑誌『Ecology』に掲載されています。
頂点捕食者のアナコンダを「おもちゃ」に?
この驚くべき発見は、同国のノエル・ケンプ・メルカード自然史博物館(Noel Kempff Mercado Museum of Natural History)の研究チームにより報告されました。
チームは「このような出来事は、これまで目撃された例がなく、記録されたのは今回が初めてと思われる」と話します。
ボリビアカワイルカは、南米の河川に分布する4種のカワイルカのうちの1種です。
体長は2.8メートルにもなり、細かく鋭い歯を無数に持っていて、魚やカニをむしゃむしゃと食べます。ただし、ヘビは食用にしません。
今回、彼らが口に咥えていたのは、ボリビアに生息する「ベニアナコンダ(Eunectes beniensis)」という種です。
全長は約4メートル50センチ、体重は35キロほどに達し、生息圏の頂点捕食者として、何者も彼らに近づくことはできません。
共食いの例を除けば、ベニアナコンダが他の動物に殺されたり食べられたりする光景は目撃されたことがないのです。
では、なぜカワイルカは、アナコンダを口に咥えたりしたのでしょうか。
これについて、研究チームはまだ明確な答えを出すことができていません。
最も有力なのは、アナコンダをおもちゃにしたという説明です。
イルカにとって遊びは、発達過程の重要な側面であり、子イルカが採餌や交尾に関わるスキルを練習する最適な機会となっています。
ベニアナコンダは半水棲生物で、水中でも活動できますが、その時間は限られています。
チームが観察したところ、イルカは少なくとも7分間、アナコンダを水中に押さえつけており、それによって死んだ可能性もあるようです。
また、もう一つ考えられるのが、性的な好奇心を満たすためという説です。
イルカは人間に劣らず性的に活発な生き物で、あらゆる手を使って欲求を満たします。
たとえば、バンドウイルカのオスは、自らの性器にウナギを巻きつけることがありますし、水族館では、共生しているゴンドウクジラの吹き口に、性器を挿入しようとした例が観察されています。
今回の観察では、アナコンダを弄ぶイルカが勃起しているのが確認できたと研究者は述べており、もしかしたらアナコンダの柔らかさや肌触りが彼らの性的興奮を煽った可能性もあるようです。
今回の行動は、こうしたイルカの持つ習性の一環と考えられますが、いずれの説が正しかったにせよアナコンダにとってはいい迷惑だったでしょう。
参考文献
Bolivian river dolphins dangling an anaconda in their mouths have scientists puzzled
元論文
A case of playful interaction between Bolivian River Dolphins with a Beni Anaconda
提供元・ナゾロジー
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