『博物誌』とは、古代ローマの学者「プリニウス」が著した書物です。

地理学、天文学、動植物など、自然界のあらゆる物事や現象について、全37巻という膨大な巻数にわたって記されています。

古代ローマ時代の科学について詳細に記載されているため、科学史に残る貴重な資料として受け継がれています。

古代に信じられていた科学は、現代ではファンタジー小説の設定に出てきそうな、幻想的な面も数多く見受けられます。

そんな博物誌の最後を彩る第37巻のテーマは「宝石」。

『博物誌』に記載された宝石たちの特徴や歴史の中には、現代ではあまり知られていないことや、思わず驚いてしまうような不可思議なことも数多く記されています。

今回は、そんなプリニウスの『博物誌』に登場する現代でもよく知られた宝石たちの、知られざる一面を紐解いていきます。

目次
プリニウスとは何者?

プリニウスとは何者?

古代ローマの学者プリニウスが『博物誌』に記した身近な宝石たちの”知られざる一面”
(画像=プリニウス / credit:Wikipedia,『ナゾロジー』より 引用)

プリニウス(ガイウス・プリニウス・セクンドゥス)とは、古代ローマの博物学者です。

軍人としてローマ帝国の属州総督を任される傍ら、自然界のあらゆる事象を網羅した書物『博物誌』を執筆し、皇帝ティトゥスに捧げました。

後に政治家となる養子のガイウス・プリニウス・カエキリウス・セクンドゥスと区別して「大プリニウス」と呼ばれることも多い人物です。

プリニウスが著した『博物誌』の第37巻は「宝石」をテーマにしています。

プリニウスの時代に信じられていた宝石の性質は、現代にも通ずるものから、現代ではおとぎ話の世界のように感じられる幻想的なものまで、さまざまです。

今回は、『博物誌』の中でも特筆すべき性質を持った5つの宝石たちをご紹介いたします。

『博物誌』に登場する宝石たち

アンバー(琥珀)

古代ローマの学者プリニウスが『博物誌』に記した身近な宝石たちの”知られざる一面”
(画像=アンバー / credit:Wikipedia,『ナゾロジー』より 引用)

アンバー(琥珀)とは、木の樹液が地面に埋もれ、数千年から数億年かけて化石となったものです。

樹液の中に昆虫や小動物が入っていることもあり、学術的価値も高い宝石です。

プリニウスの時代には、すでにアンバーが木の樹液からできることは知られていましたが、プリニウスはそれ以外にも、かつて信じられていた「アンバーのでき方」について触れています。

たとえば、ピケシス湖という湖が太陽の光で熱せられた際に、泥の中からアンバーが生まれるという説があります。

そのため、アンバーは「エレクトルム(『エレクトル』とは『輝くもの』という意味)」とも呼ばれていました。

さらに面白い例として、アンバーはリュンクス(オオヤマネコ)の小便が結晶化してできたものであるという説があり、アンバーは「リュンクリウム(リュンクスの小便)」とも呼ばれていました。

リュンクスの性別によってアンバーの色合いに違いが出るとも述べており、オスは燃えるようなオレンジ色のアンバーを、メスは明るい黄色のアンバーを生み出すとされています。

そんなアンバーは、護符や薬として、さまざまな効果をもたらしてくれると信じられていました。

たとえば、「クリュセレクトル(黄金琥珀)」と呼ばれるアンバーは、護符として身に着けると発熱や病気を癒し、粉末にしたものを蜂蜜やバラ油と混ぜると耳の病気の薬になると信じられていました。

アンバーはプリニウスの時代にもたいへん高価なもので、アンバーで作った小さな人形は多くの奴隷よりも価値があったようです。

ベリル(緑柱石)

古代ローマの学者プリニウスが『博物誌』に記した身近な宝石たちの”知られざる一面”
(画像=ベリル / credit:Wikipedia,『ナゾロジー』より 引用)

ベリルは、その色合いによってさまざまな名前を持つ宝石です。

  • 緑:エメラルド
  • 水色:アクアマリン
  • ピンク:モルガナイト
  • 黄色:ヘリオドール
  • 無色:ゴシェナイト
  • 赤:レッドベリル

「ベリル」という名前の由来は、エメラルドやアクアマリンに見られるような「青緑色の石」を指す「ベリロス(beryllos)」というギリシャ語です。

今日ではエメラルドはベリルの一種であることが判明していますが、プリニウスの時代には、エメラルドとベリルはよく似た別の宝石であると信じられていました。

ベリルもアメジストと同様、色合いによってランク付けがされている宝石でした。

たとえば、もっとも価値があるベリルは海のような青緑色をしているもので、それに次いで価値があるのは「金緑石」と呼ばれる金色がかったベリルであるとされていました。

それよりもグレードが落ちてくると「ヒュアキンティゾンテス(サファイア色ベリル)」「アエロイデス(空の青)」「ロウ色」「油色」など、さまざまな名で呼ばれました。

ベリルは長い柱状の結晶を形成することが多いのですが、古代ローマ時代のインドではその結晶の形がたいへん好まれており、インド人はスッと伸びた結晶の形のままで装飾品にしていたと記されています。

ルビー(紅玉)

古代ローマの学者プリニウスが『博物誌』に記した身近な宝石たちの”知られざる一面”
(画像=ルビー / credit:gemstones.com,『ナゾロジー』より 引用)

ルビーは、コランダム(鋼玉)という鉱物の中でも赤いものを指します。

燃え盛る炎のような真紅の色合いから、名前の由来もラテン語で「赤」を意味する「ルベウス(rubeus)」です。

ルビーは、日本では7月の誕生石に指定されています。

プリニウスの時代には、ルビーは全ての赤い宝石の中でも頂点に立つものとされており、なおかつ火に耐性がある「アカウストエ(不燃性の石)」としても知られていました。

また、当時はルビーにはオスとメスの区別があり、オスのルビーの方がより強い輝きを持つと信じられていました。

そのほかにも『博物誌』では、グレードに応じてさまざまな名称を持つルビーと、その特徴を述べています。

たとえば、最上級のルビーは「紫水晶色の石」と呼ばれており、火のような赤からアメジストのような紫へのグラデーションがかったものとされていました。

その次に価値のあるルビーは「シルティタエ(シルティスの石)」と呼ばれ、羽毛状の輝きを持つと述べています。

なお、当時はガラスで作った模造ルビーが出回ることも多かったようで、プリニウスはルビーの硬度を利用し、砥石にかけることでガラス製の偽物と本物とを区別する鑑定法を記載しています。