日本各地の沿岸に見られるバテイラ属(Tegula)は、一般に「シッタカ(尻高)」「しったか貝」として市場に出回っています。
皆さんも一度は口にしたことがあるかもしれません。
その一種である「クマノコガイ」には、殻が漆黒色と緑褐色のものがあり、これまで同種と見なされていました。
ところが、東北大学、岡山大学の最新研究により、緑褐色のクマノコガイは完全なる別種であることが判明したのです。
研究は、12月10日付けで『Molluscan Research』に掲載されています。
DNA解析から別種と判明!ついに自分の名前をゲット
緑褐色の個体には「クサイロクマノコガイ」という和名があるものの、有効な学名ではありません。
クマノコガイの種内変異と見なされており、生物学上は”ナナシの貝”でした。
しかし、DNA塩基配列や形態・生息環境等の比較の結果、クマノコガイとは別種であることが特定されました。
そこで正式に「Tegula kusairo」という学名が付けられています。
バテイラ属の貝類は、円錐形をした黒色の厚い殻が特徴で、浅瀬の岩礁に生息します。
分類上は、軟体動物門・腹足綱(=巻貝類)・古腹足亜綱・ニシキウズ目のクボガイ科(=バテイラ科)に属します。
日本近海には、クボガイ・ヤマタカクボガイ・クマノコガイを含む7種が知られていますが、それらの系統関係はつい最近までよくわかっていませんでした。
研究チームはこの7種のDNA塩基配列から系統樹をつくり、種間の関係を初めて明らかにしました。
その結果として、クサイロクマノコガイがクマノコガイとは別種であり、むしろヤマタカクボガイ(台湾〜香港に分布)に近縁であることが判明しています。
このように食用にされる身近な貝類でさえ、いまだに未確認の種が含まれています。
「種」は分類学の上で重要な基本単位であり、それが混乱すると、保護すべき希少種と駆逐すべき外来種を取り違える恐れもあります。
海や川で取って来た何気ない貝が、実は新種だったなんてこともあるかもしれませんね。
参考文献
東北大学
提供元・ナゾロジー
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