約6600万年前、直径約10kmもの巨大隕石が地球に落下し、地球を支配していた恐竜たちの時代を終わらせました。
この隕石落下は巻き上げた塵で太陽光を遮り、海洋を酸性化させ恐竜だけでなくあらゆる地球上の生物の大量絶滅を引き起こしました。
しかし、現在の海には生物が溢れています。光合成ができなくなったというのに、海に棲んでいた藻類(プランクトン)の多くは、なぜこの災厄を生き延びることができたのでしょう?
10月30日にオープンアクセスジャーナル『Science Advances』で発表された新しい研究では、古第三紀初期の海底から発見された化石を分析したところ、当時の藻類がバクテリアなどを捕食する形態に進化してこの時代を生き延びていた、と報告しています。
遭難者が仲間の肉を食べて生き延びたという逸話があるように、大量絶滅の時期は捕食を本来しない生物も他の生物を食べて生き延びるしかなかったようです。
目次
捕食を初めたプランクトン
大量絶滅を生き延びた混合栄養生物
捕食を初めたプランクトン
6600万年前の小惑星衝突による大量絶滅イベントでは、大量の破片や塵が空を覆い地球を暗闇の世界に落とし入れたと考えられています。
このとき気候は寒冷化し、海は酸性化し、大気中にも有害なエアロゾルが放出されたと考えられます。地上では恐竜を初め多くの生物が死に絶えていき、海洋でも多くの藻類が死滅しました。
ここで気になるのが、海洋では一部の藻類は生き延びていたという事実です。
今回の研究チームの1人、カリフォルニア大学リバーサイド校の地質学者アンドリュー・リッジウェル氏は次のように述べています。「食物連鎖の基盤となる藻類が全滅していれば、海洋生物は海から一掃されていたでしょう。私たちの興味は、どうやって地球の海がそんな破滅的な運命を回避したのかということです」
この疑問を解決させるため、研究チームは同時代の保存状態の良い藻類の化石を調べ、時間の経過とともに彼らがどのように進化したかをシミュレーションしました。
大量絶滅直後である古第三紀の海底から見つかった化石は、ほとんどが円石藻と呼ばれる小さな生き物でした。円石藻は炭酸カルシウムでできた丸い盾に覆われた球体の植物プランクトンです。彼らは現代の海洋では広く見つかる存在です。
リッジウェル氏は、この化石化した殻に穴が空いているのを発見しました。こうした穴は現代の円石藻ではべん毛が生えていて、泳いでバクテリアやより小さな藻類を捕食するのに使われています。
ここから研究チームは、この時代の円石藻は現代のものに非常に似ていたという結論を導き出しました。
大量絶滅を生き延びた混合栄養生物
葉緑体を持ち光合成によって太陽光と二酸化炭素、水から栄養を作れる他に、他生物を餌にして栄養を得ることができる生物を混合栄養生物と呼びます。
これは地上の植物では、ハエトリグサなどの食虫植物が該当します。
小惑星衝突後、暗闇に覆われた世界では単一のエネルギー源しか持たなかった生物は死ぬことになったでしょう。そして生き残ったのは、新しいエネルギー源を得た混合栄養生物だったのです。
これらの種は、日光が地球に戻ったあとも150万年から200万年ほどの間、優勢な種であったようです。
光が戻れば光合成を行う種が再進化を初め、海洋の首位を取り戻すと考えられましたが、混合栄養生物はその後も長く海洋で優勢を保ち続けていました。
これは研究チームにとって意外な結果でした。そこで、チームは日光が戻った後の状態をシミュレーションする単純なモデルを作って検証を行いました。
すると、混合栄養生物は1度確立されると長期に渡って広まったまま維持されることを発見したのです。
混合栄養生物に進化することは、大量絶滅を生き延びるための最初の手段だったと考えられ、その後の世界でも有利になる方法だったようです。
この調査結果は、海洋生物に影響を与えたのは、急激な温度変化や海洋酸性化ではなく、長期に渡る暗闇だった可能性を強調しています。
「これはハロウィンに相応しいお話かもしれない」とリッジウェル氏は冗談を言っています。「明かりが消えるとみんなお互いに食べあうんですよ」
なんとも怖ろしい話ですね。
提供元・ナゾロジー
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