生命誕生前の地球には非常に基礎的な化学物質しかありませんでした。
それらが化学反応を繰り返し、現在の複雑でさまざまな分子たち、特に生命を作り出す有機物質を生み出したのです。
これは「バラバラにした時計の部品を袋に入れてシャカシャカ振っていたら時計に戻った」というくらい奇跡的な出来事だと言われたりもします。
しかし、現在では「生命起源(英: Abiogenesis)」の研究も進歩していて、無生物から生命が誕生する化学反応の経路もコンピュータシミュレーションから明らかになりつつあります。
科学誌『Science』に9月25日付けで掲載された新たな研究は、初期の地球にも存在した基礎的な分子を出発点に化学反応をシミュレートするソフトウェアを使って、実際に生命が誕生した経路を再現することに成功したと報告しています。
生命誕生の経路をたどるソフトウェア「Allchemy」
少なくとも37億年前、地球には単純な分子だけしかありませんでした。
それが組み合わさっていくつか新しい分子が生まれ、そして、その組み合わせは雪だるま式に膨れ上がり、最終的に地球上すべての生命体を生み出すまで進化していったのです。
これはおそろく複雑で奇跡的な出来事に思えます。
しかし、逆に元をたどれば、宇宙のどこにでもありふれた基礎的な分子だけで現在の状況を作ることが可能だとも言えるのです。
そこでポーランド科学アカデミーや韓国基礎科学研究院などの研究者チームは、さまざまな化学反応の基本的なルールを学習させたソフトウェアを開発しました。
ソフトウェアは「Allchemy」と名付けられ、最終的に出来上がった化合物は、どういう過程を経てそれが生まれたかの化学反応の経路もたどることができるようになっています。
そして、研究チームはこのソフトウェアを使い、惑星の初期に存在した基礎的な分子6つ(水、窒素、シアン化物、アンモニア、メタン、硫黄)を出発点に化学反応を繰り返させるシミュレーションを行ったのです。
化学反応が描き出す「生命誕生の木」
このソフトウェアは6つの化学物質からスタートして、可能性のある連続した反応を次々と特定していきます。
それは世代が進むほど、どんどん複雑なツリー構造を描き出していきます。
そして最終的には核酸、脂質、酵素のような生命の構成要素となるタンパク質などを生成し、その経路を明らかにすることができました。
いくつかの化学物質の経路については、すでに判明しているものもありますが、その経路も含めすべて再現されていました。
このシミュレーションの結果には、意外な事実も含まれており、尿素やDNAの構成要素であるアデニン、シュウ酸などは、わずか2回の反応で形成されていました。
また、同じくDNAの構成要素であるシトシン、アスパラギン酸やリンゴ酸など複数の生命に関連する分子も3回の反応で形成されています。
このように生命に必要な分子の中には、信じられないほど迅速に形成されるものがあったのです。
2時間の計算で、「Allchemy」は生物学的分子を82、非生物学的分子を36603生成することができたと研究者は述べています。
研究チームは、ここで明らかになった過程を再現し、いくつかの物質については実験室で実際に合成することもできたといいます。
これはまさに生命が誕生するまでに描かれた化学反応の生命の樹と呼べるものでしょう。
参考文献
sciencealert
提供元・ナゾロジー
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