目次
「文法」と「意味」という言語概念でウイルスを解釈する
「文を理解するAI」は最先端モデルよりも高い結果を出した
「文法」と「意味」という言語概念でウイルスを解釈する
言語概念でウイルスをどのように解釈できるのか、例えで考えてみましょう。
【黒い、とげの大きな微生物】という文(配列)のウイルスがあるとします。
このウイルスには「からだが黒色の微生物」かつ「大きいとげを持つ微生物」という意味があります。
そこで免疫系は「大きいとげを持つ微生物」をブロックするようにします。
しかしウイルスは変異を起こして、【黒いとげの、大きな微生物】へと変化します。これは【、】の位置が変わるという些細な変異です。
ところが意味は大きく変わります。ウイルスは「黒色のとげを持つ微生物」「からだが大きな微生物」という意味に変化するのです。
当然、「大きいとげを持つ微生物」をブロックする免疫系には引っかからなくなります。
ちなみに、突然変異の仕方によっては、【黒いとげの大き、な微生物】となることもあります。
これは「文法的に正しくない=感染力が弱い」ので、ウイルスとして大きな影響を持ちません。
「文を理解するAI」は最先端モデルよりも高い結果を出した
さて、例えで考えてきたように、ウイルスの突然変異と文の構造把握には共通点があります。そのため、NLPアルゴリズムを応用することで、ウイルスの突然変異を見つけることができるのです。
このアプローチの目的は、すべての突然変異を予測し、調べていくことではありません。
ウイルスの感染力を低下させずに免疫系を欺ける変異、つまり、文法的に正確で意味が異なる変異だけを予測したいのです。
そして言語概念的な方法であれば、条件に該当する変異を見つけ出すのは比較的容易です。
これは、私たちが【黒い、とげの大きな微生物】という文から、文法が正しく意味が異なる変形文を比較的簡単に探しだせるのと同じです。
実際、研究チームは3つの異なるウイルスから取得した数千の遺伝子配列でAIを学習させ、コロナウイルス株に対する予測指標0.85を取得しました。
予測指標とは予測精度を0.5(偶然)~1(完璧)で表したものであり、今回の結果は最先端の他の予測モデルよりも優れていたとのこと。
現在、新型コロナウイルスの変異が見られており、今後も新たに変異していくかもしれません。
そのためにも変異を素早く予測することは大切です。
しかし従来の方法は、病院で患者からウイルスを採取し、ゲノム配列を確定。その後、研究室でその変異を再現するというもの。これには数週間かかります。
今回開発されたNLPアルゴリズムを利用すれば、このプロセスが一気に加速します。潜在的な変異を予測できるので、いきなり研究室での作業に移れるのです。
今後研究チームは、NLPアルゴリズムを進展させるとともに、言語と生物学の類似点への理解を深めていく予定です。
参考文献
technologyreview
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功