宇宙の最初はどのようになっていたのでしょうか?

これは成熟した人間の姿から赤ちゃんだった頃の姿を予測するようなもので、非常に困難の伴う研究です。

1月4日に米国の物理学専門誌『フィジカル・レビュー D』に掲載された日本の国立天文台、統計数理研究所などの研究チームは、スーパーコンピュータを使った大規模なシミュレーションによってごく初期の宇宙の様子を探る新しい解析方法を報告しました。

これは4000もの異なるバージョンの宇宙を使った大規模なシミュレーションで、今回の結果からインフレーション理論の検証を今までの約10分の1の時間で実施できるようになるのだといいます。

目次
初期の宇宙はどうなっているのか?
宇宙を進化させてから再構築法で巻き戻す

初期の宇宙はどうなっているのか?

宇宙に存在する銀河たちは、ランダムに散らばっているわけではありません。

銀河は宇宙の大規模構造と呼ばれる泡状の構造に沿って部分的に集まって存在しています。

宇宙は星の集まった領域と、何もない領域がまるで脳内ネットワークのような構造になっているのです。

スーパーコンピュータで4000の宇宙の時間を巻き戻す?! 宇宙の始まりを探る壮大な研究
(画像=スローン・デジタルスカイサーベイで得られた銀河の分布。宇宙の大規模構造と呼ばれる。銀河は一様に分布するわけではなく、フィラメント状構造を作っている。 / Credit:SDSSⅢ、『ナゾロジー』より引用)

この構造は、ビッグバン以前のインフレーション期(宇宙の初期に起こった加速的な膨張期)の密度ゆらぎが起源だと考えられています。

これを「インフレーション理論」と呼びます。

初期宇宙の密度ゆらぎがどのようになっていたかを理解できれば、宇宙の始まりでどのような現象が起きていたかを知ることができます。

ではこれを知るためにどうするかというと、現在の銀河分布を観測して、そこから時間を巻き戻して行くしかありません。

この方法によって、インフレーション理論には、いくつも異なるバージョンの初期宇宙の予言があります。

しかし、どれが正しいか検証する作業はあまりはかどってはいません。

宇宙に存在する天体は、お互いの重力の影響によって複雑な動き方をします。

138億年にもわたる銀河同士の重力相互作用の影響を取り除いて、初期宇宙の密度ゆらぎを検証するというのは、とんでもなく困難な作業なのです。

けれど、何も手立てがないわけではありません。

この検証に有望な方法として、再構築法と呼ばれる方法があります。

ここでは銀河が一様に分布していたとして、どのように銀河を動かせば観測される銀河分布が再現できるかを考えます。この問題の近似解は、宇宙初期の状態から現代の銀河分布を予言するために使えます。

再構築法は、この操作を逆に行っていき、観測された大規模構造から、初期の銀河の分布を推定する方法です。

この方法は、重力相互作用の影響を完全に取り除いて、時間を巻き戻して銀河分布を得ることができます。つまり初期宇宙の密度ゆらぎを反映した答えが得られるのです。

ただ、この方法が実際どの程度、真実に近いのかはわかっていませんでした。

研究チームは、再構築法には可能性があると感じていましたが、精度がわからなかったため、この方法の正しさを検証する方法を考えたのです。

宇宙を進化させてから再構築法で巻き戻す

そこで考え出されたのが、今回の研究です。

研究チームが考えたのは、実際にある初期条件で宇宙を成長させてから、再構築法で巻き戻したらどうなるか? というものでした。

例えば、ある密度ゆらぎの初期銀河分布を考え、そこから重力多体シミュレーションを行って大規模構造を形成させていきます。

ここで得られた銀河分布を、今度は再構築法によって巻き戻し、初期の銀河分布に戻すのです。

スーパーコンピュータで4000の宇宙の時間を巻き戻す?! 宇宙の始まりを探る壮大な研究
(画像=研究の解説図。初期密度ゆらぎが進化したと考えた銀河分布を用意し、そこから重力多体シミュレーションで現代の宇宙まで成長させる。それを再構築法で巻き戻し、最初の条件のものと見比べる。 / Credit:白崎正人,国立天文台、『ナゾロジー』より引用)

もし再構築法が正しいならば、最初に与えた初期の銀河分布と、巻き戻して作られた銀河分布は非常によく似たものになるはずです。

研究チームは、このシミュレーションのために、天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイ2」を使って、約1億体もの重力多体計算を実行しました。

スーパーコンピュータで4000の宇宙の時間を巻き戻す?! 宇宙の始まりを探る壮大な研究
(画像=天文学専門のスーパーコンピューター「アルテイⅡ」 / Credit,国立天文台、『ナゾロジー』より引用)

このシミュレーションでは、実に4000例ものさまざまな初期状態の宇宙を使って検証が繰り返されました。

すると、初期状態の銀河分布と、再構築法で得られた銀河分布が非常によく似た性質を持つことがわかったのです。

この結果から、銀河ザーベイの観測データに再構築法を適用することで、より単純なデータ処理で密度ゆらぎの検証ができる見通しが立ちました。

チームによると、これによりこれまで膨大な観測データを使っていたインフレーション理論の検証が、約10分の1の銀河観測だけで行えるようになるのだといいます。

これはつまり、必要な観測時間を従来の約10分の1まで圧縮できることを意味しています。

宇宙の始まりを科学的に検証する手段が手に入ったことで、ここから新たな宇宙の秘密が解き明かされていくかもしれません。

【編集注 2020.03.08 09:35】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。


参考文献

スーパーコンピュータで時間を戻して探る宇宙の始まり(CfCA)

元論文

Constraining primordial non-Gaussianity with postreconstructed galaxy bispectrum in redshift space


提供元・ナゾロジー

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