氷が滑る理由について、全人類は勘違いをしていたようです。

2月18日に『Physical Review X』に掲載された論文では、氷の上を物が滑るための条件として、表面の「水の層」が必要ないことが示されました。

氷の上を滑るときには表面に溶けた「水の層」が作られるとする説は150年前(1886年)から言われてきましたが、どうやら間違いだったようです。

では、何が氷の滑りやすさを決めていたのでしょうか?

目次
氷が滑る理由を150年ぶりに解明 氷はマイナス100℃で滑らなくなる
滑りやすさは凍ったままの分子たちの振動幅が決めていた

氷が滑る理由を150年ぶりに解明 氷はマイナス100℃で滑らなくなる

氷の上を滑れる理由が150年ぶりに解明される! マイナス7℃の氷がもっとも滑る
(画像=氷の上を滑るために「水の層」は必要ない / Credit:Physical Review X、『ナゾロジー』より引用)

意外なことに、氷が滑る原因は長い間、物理学の大きな謎でした。

定説として「圧力や摩擦熱によって氷の表面に水の層が生じているから」というものが知られていますが、厳密には正しくなかったのです。

圧力で氷を溶かすには人間の体重を遥かに上回る非現実的な接触圧が必要であり、スケートブーツは摩擦熱をほとんど生じないような低速度でも、氷の上をよく滑りました。

つまり、氷の上を滑るためには、表面の「水の層」は必要な要素ではないのです。

では何が氷の上を滑りやすくしているのか?

疑問に答えるために物理学者たちは上の図のような原始的な機材を開発し、実験をおこないました。

結果、マイナス100℃になると、氷は滑らなくなる現象が発見されたのです。

滑りやすさは凍ったままの分子たちの振動幅が決めていた

氷の上を滑れる理由が150年ぶりに解明される! マイナス7℃の氷がもっとも滑る
(画像=表面の氷分子の振幅幅が大きいほど氷は滑りやすくなる / Credit:University of Amsterdam、『ナゾロジー』より引用)

新しい研究では、研究者たちは上にあげた装置を用いて、温度・圧力・速度などの条件を変えながらさまざまなタイプの滑りを測定しました。

すると、温度をマイナス100℃まで下げた時に、急に滑りが悪くなりアイススケートが不可能になることがわかりました。

研究者たちが氷の表面分子を調べたところ、やはり「水の層」は存在しなかった一方で、表面の氷分子の振動幅(可動性)が滑りやすさと大きく関係していることが示されました。

装置による実験、およびシミュレーションの双方で検証した結果、氷が冷えて表面の分子振動が小さくなるにつれて、摩擦抵抗が増加していることが判明したのです。

この結果は、氷の滑りやすさを決めているのは、表面にある「水分子の可動性」であることを示します。

しかし氷の滑りやすさを決めているのは表面分子の振動だけではありませんでした。

表面が凸凹な氷(または凸凹のスケート刃)を用いた実験データでは、局所的な接触圧力の増加が滑りを悪くしていることが示されました。

この結果は、経験的な事実と一致します。

加えて今回の研究では、氷の温度も重要であることが示されました。

氷の温度が上がるにつれて表面の氷分子の可動性が増して滑りやすくなっていきます。

しかし、可動性の増加は同時に耐久性の減少につながり、スケート刃が氷の表面に食い込んで、物理的な抵抗が生じてしまうのです。

そこで重要になってくるのが、速度でした。

スケート刃の速度が速い場合、スケート刃が氷に食い込む率を下げることができるからです。

以上の結果は、氷の滑りやすさは「温度」「圧力」「速度」の相互作用が決めていることを示します。

古くから言われてきた表面の「水の層」の存在は、氷の滑りやすさを決める初期要因ではなく、後から考慮すべき追加条件であると言えるでしょう。