自動運転技術は最終的に、人間が一切介入しなくても走行できる完全自動運転というレベルを目指して研究されています。
しかし、そんなことが本当に可能になるのか、未だに疑わしいと感じている人は多いでしょう。
ノースウエスタン大学の研究チームは、この困難な課題を解決される方法として、ショウジョウバエを利用しようと考えています。
この研究チームによると、コンピューターシミュレーションを用いてハエのように熱源を避ける自動車を作成できたと報告しています。
この研究は、4月6日付けでオープンアクセスジャーナル『Nature Communications』に掲載されています。
目次
完全自動運転は可能なのか?
ハエを元に進化させた自動運転シミュレーション
完全自動運転は可能なのか?
自動運転技術は、現在目まぐるしい勢いで進化を遂げています。
自動運転については、いくつかの段階が設定されていて、これまで登場している技術は、ドライバーの監視を必要とするものでした。
しかし、2021年3月には世界で初めてホンダが、「条件付き自動運転(レベル3)」が可能な自動車「レジェンド」の販売を発表しています。
「条件付き自動運転(レベル3)」は、基本的にシステムが運転のすべてを行い、人間のドライバーはシステムに要求された場合のみ手を貸すというものです。
こうした自動運転技術が最終的に目指すのは、一切人間の介入が不要となる「完全自動運転(レベル5)」です。
完全自動運転では、人間が自動車に乗車している必要すらなくなります。
しかし、そこまで技術は現状ではなかなかイメージの難しいものがあります。
アメリカ自動車協会(AAA)が行った自動運転に関する年次調査によると、回答者の70%以上が「完全自動運転者に乗るのは怖い」と回答しているそうです。
こうした状況を踏まえると、メーカーの計画も完全自動運転を達成する前に、振り出しに戻ってしまう可能性もあります。
では、予期せぬ状況に柔軟に対処する自動車を作るためには、どうすればよいのでしょうか?
ここで、今回のノースウエスタン大学の研究者がヒントになると考えたのが、ショウジョウバエでした。
ハエを元に進化させた自動運転シミュレーション
なんでハエ? と疑問に感じる人も多いかもしれませんが、昆虫はさほど複雑な脳を持たないにもかかわらず、さまざまな状況に柔軟に対応しています。
ショウジョウバエは熱源を巧みに回避する行動を取ります。
これはハエが学習・記憶を利用し柔軟に意思決定をしていることを示すものです。
ハエはどうやって、その行動を実現しているのでしょうか?
「この疑問に答えることは、安全で柔軟な自動運転車をプログラムするために、何が必要か考える問題と似ています」ノースウエスタン大学の神経生物学准教授であるマルコ・ガリオ氏はそのように研究の背景を説明します。
昆虫の行動について、多くの人は単純なスクリプト制御やシーケンス制御に近いものだろうと考えがちです。
それは機械的で大部分が固定された動作です。
しかし、ガリオ研究室はそれが一般的に考えられているほど、単純なものではないことを発見しました。
研究では、4枚の温度が違う床タイルを備えたプラスチック製の部屋にショウジョウバエを閉じ込め、その行動を監視してみました。
するとショウジョウバエは、温度の異なる境界をまるでバリアのように扱い、巧みに回避して飛行したのです。
研究チームは、この実験中のハエの動きを再現する3Dモデルを作成するとともに、ハエの脳を開いて温度信号を処理するニューロンの脳活動を記録しました。
この結果、ハエは好みの温度にとどまるために、最適な経路が左右どちらにあるかということを驚くほど正確に判断できることがわかったのです。
熱源に近づいたとき、ハエは迅速な判断を行います。
このハエの行動を観察していた研究チームは、このときある古典的なロボット工学のコンセプトを思い出したと言います。
それはブライテンベルクビークルと呼ばれるものです。