お風呂の栓を抜いたときにできる竜巻のような水の渦を眺めていて「ブラックホールもこんな感じなのかな」なんて思い浮かべたことはないでしょうか?
実は同じことを考えた研究チームが世界にいました。
イギリス・ノッティンガム大学の研究チームは、1月29日に科学雑誌『Physical Review Letters』に掲載された新しい研究の中で、浴槽から流れ出る排水渦を利用して、ブラックホールの逆反応を含めた振る舞いを観測することに成功したと報告しています。
この研究は、浴槽の水という単純な設備で、実験室でブラックホール周辺の様子を再現できる可能性を示しています。
目次
実験室で作れるブラックホール
渦巻く波紋とブラックホールの逆反応
実験室で作れるブラックホール
ブラックホールについては、その振る舞いに関するさまざまな理論が提唱されてきましたが、これを実際に観測で確認するとなると大きな困難が立ちはだかります。
特に、逆反応と呼ばれる現象は微妙すぎて観測では検出できません。
逆反応というのは、ホーキング輻射などのブラックホールの蒸発現象のことです。
ブラックホールは何でも飲み込んでいるように見えますが、実際には放射も行っています。もしブラックホールがまったく成長することがなければ、この効果によっていずれは完全に蒸発してしまいます。
研究者たちはこうした、ブラックホールの逆反応による周辺空間への影響を実験室で調べたいと考えていました。
しかし、当然のことながら、ブラックホールを実験室に作り出すというのは現状では不可能です。
そこで研究者が考えたのが、類似物を使って調べるということでした。
誰でも一度は、排水口に流れ込む水の渦と、ブラックホールを関連付けて想像したことがあると思いますが、研究者も同じことを考えました。
実際、排水溝を渦巻く水は、ブラックホールに物質が降着する際の挙動とよく似ています。
研究チームは、ここ10年間ほど、この排水渦とブラックホールの類似性について研究を行ってきました。
そして今回、ついにブラックホールの逆反応の影響を、水タンクを使った実験装置によって確認することに成功したのです。
渦巻く波紋とブラックホールの逆反応
排水溝への水の流出が、ブラックホールへ降着する物質として見ることができるならば、水はブラックホール周辺の時空自体として、また量子活動で波打つフィールドとして見立てることができます。
水が渦巻いて排管へ流れ落ちるとき、周辺にできるさざ波は、ブラックホールへ消えていくエネルギーの波について、何かを伝えているのかもしれません。
そこで研究チームは、排水渦の波打つ挙動が、何をおこなっているか分析しました。
その結果、浴槽内を移動する排水による波は、排水口に向かって余分な水を押し込むことで、「降着」のプロセスを大幅に加速させていることがわかりました。
浴槽を使った実験では、実際に水位が大きく低下していくため、ブラックホールの特性が変化していることを視覚的に確認できたのです。
これは非常に有用な情報である可能性があります。
質量の増加によって、ブラックホールの重力強度が変化し、周囲の空間を歪めたり、重力波がブラックホールの挙動にどう影響を与えていくかを、この新しい方法で見ることができるからです。
研究者にとって、特に印象的だったのは、逆反応が十分に大きいために、システム全体の水位が非常に低くなる様子を、目で見ることができた点です。
「これは予想外だった」と研究チームの1人、ノッティンガム大学のサム・パトリック氏は述べています。
この実験は、時空を通過する波の起こす相互作用を実験的に調査する道を開いたといいます。
このタイプの相互作用は、実験室でブラックホールの蒸発を調査するために重要な鍵となるものです。
見慣れた排水溝の水の渦が、実際にブラックホール研究の役に立つというのは驚きです。
観測が難しい物理現象の秘密は、意外と身近な現象の中に潜んでいるのかもしれません。
参考文献
The University of Nottingham
sciencealert
元論文
Backreaction in an Analogue Black Hole Experiment
提供元・ナゾロジー
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