今回は意外と知られていないプッシュアップの正しいフォームについて解説していきます。

文:井上大輔 <NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会>

意外と知られていないプッシュアップのフォーム

最初に一番大切なポイントは「体幹を真っすぐに保つ(ニュートラルスパイン)」ということです。大胸筋を発達させるだけでなく、身体の機能性を向上することを目的とするならば真っすぐな体幹を維持することは最も重要なポイントと言えます。

意外と知らない腕立て伏せの正しいフォーム
(画像=1-1 腰が反った腹圧のかからないフォーム、『FITNESS LOVE』より引用)

写真1-1のように、腕立て伏せのフォームは体幹に対して伸展(身体を反る動き)の方向に重力が加わるので、それに負けてしまうとこのようなフォームになってしまいます。ニュートラルスパインを維持できないとなると身体のメカニズム上「腹腔内圧」を維持することができず、腰椎に多大なストレスがかかり、また身体の防御反応により脳からの指令で大きな力を発揮することができなくなります。この反応は「抑制」と呼ばれます。

つまり、このようなフォームでは腰を痛める危険性が増すばかりか、力を十分に発揮することができないので、筋肥大も筋力アップも難しい状態であると言えます。よくある誤解として、腰を反ってエクササイズを行うことで小さい負荷でも筋肉に効かせる(刺激を与える)ことができると言われることがありますが、ほとんどの場合、脳が抑制をかけている場合が多いので、筋肥大にも筋力向上にも効果を発揮していないことがあります。

意外と知らない腕立て伏せの正しいフォーム
(画像=1-2 背中に棒を置くことで、脊柱のニュートラルポジションを感じることができます、『FITNESS LOVE』より引用)

対処法としては、棒を背中に置くことにより、棒と体幹の接地を感じることで自身の体幹がニュートラルかどうか感じることができます。(写真1-2)2番目に大切なことは肩甲骨を寄せないということです。ベンチプレスの際も説明しましたが、写真2-1のように肩甲骨を寄せて腕立て伏せを行うと関節窩が横を向いてしまい、肩関節が脱臼の方向に力が働いてしまいます。(写真2-2)

意外と知らない腕立て伏せの正しいフォーム
(画像=2-1 肩甲骨が寄ったプッシュアップの好ましくないフォーム、『FITNESS LOVE』より引用)
意外と知らない腕立て伏せの正しいフォーム
(画像=2-2 肩甲骨を寄せた状態でプッシュアップの負荷をかけると写真のよう に関節が脱臼する方向に負荷がかかります、『FITNESS LOVE』より引用)

その防御反応として周りの筋肉(大胸筋や僧帽筋など)を動員して脱臼しないようにそれらの筋肉を固めてしまいます。これがベンチプレスや腕立て伏せを行った後に肩周りが硬くなる原因となってしまうのです。

子どもや女性がプッシュアップを行う際に、肘が曲がらず浅い稼働範囲で行っている光景をよく見かけますが、この場合ほとんどが筋力不足で肩甲骨を寄せてしまっているケースになります。これは肩甲骨を広げる(外転)役割を持つ「前鋸筋」という筋肉が弱いか不活性であることが原因です。つまりプッシュアップができない子どもや女性の問題として、単純にプッシュアップの主動筋である大胸筋が弱いことだけでなく、むしろ前鋸筋が使えてない場合がほとんどであると言えます。

意外と知らない腕立て伏せの正しいフォーム
(画像=2-3 肩甲骨プッシュアップのスタートポジション、『FITNESS LOVE』より引用)
意外と知らない腕立て伏せの正しいフォーム
(画像=2-4 肩甲骨プッシュアップのフィニッシュポジション、『FITNESS LOVE』より引用)
意外と知らない腕立て伏せの正しいフォーム
(画像=2-5 肩甲骨を寄せない最適なポジション、『FITNESS LOVE』より引用)

この場合の対処法としては、特に子どもの場合は「手押し車」をすることによって前鋸筋の強化が自然に行われます。また、女性の場合は「肩甲骨プッシュアップ」(写真2-3、写真2-4)を行うことにより、前鋸筋が活性化され、徐々に改善できるのではないかと思います。 一般的によく使われる「肩甲骨を寄せて」というキューイングは機能解剖学を考慮すると適切な口頭指示ではないとも言えます。では肩甲骨を寄せないポジションはどこか?という質問があると思いますが、立位の状態で肩を大きく1周回した際に時計の針でいうと6時の位置にあたる場所が肩甲骨の寄っていない、また上がっていない最適なポジションに近い場所であると言えます。(写真2-5)

意外と知らない腕立て伏せの正しいフォーム
(画像=3-1 脇は30度を目安に締め気味に行う、『FITNESS LOVE』より引用)

最後に重要なことは、脇を締め気味に行うということです。(写真3-1)これはベンチプレスのときにも解説しましたが、脇の角度が30度以上大きくなってしまうと、肩甲骨の上方回旋という動きが起こり、肩関節が不安定になります。大胸筋を刺激したいならば、肩甲骨のレストポジションと呼ばれる場所に固定しておくことが大事になってきます。

よく言われるのは、脇を広げると大胸筋を刺激し、脇を締めると上腕三頭筋を刺激すると言われていますが、確かに脇を締めるとプッシュアップの際にも肘関節の可動域が大きくなるので、結果上腕三頭筋が多く働くことになります。ただ、肩甲骨が不安定になると、大胸筋も大きな力を発揮できないのと、ケガのリスクを少なくするという意味で、プッシュアップを行う際は脇を30度ぐらいに締めた状態で行うことを推奨しています。

プッシュアップのフォームについて簡単にまとめると以下のようになります。

①背中は真っすぐ(ニュートラルスパイン)
②肩甲骨を寄せない
③脇の角度は30度を目安に行う 


井上 大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/ NSCACSCS/NPO 法人JFTA 理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF 全日本選手権 第6位。
NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会 TEL:078-707-3111

提供元・FITNESS LOVE

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