今の中高年の多くがトレーニングを始めたころは、アーノルド・シュワルツェネッガーのような極太の上腕二頭筋や、厚みと幅のある胸筋を作りたいと夢見たものである。トレーニング開始当初から、前鋸筋を発達させたいなどと思っていた人などいなかったはずだ。前鋸筋はボクサーズマッスルとも言われており、シェイプされたかっこいいカラダを目指す人には重要な筋肉部位だ。今日はそんな前鋸筋を鍛える種目を紹介しよう。
文:William Litz 翻訳:ゴンズプロダクション
プッシュアップ
前鋸筋は小さな筋肉だが、その位置から察して分かるとおり、様々な種目で間接的な刺激を受けている。例えばベンチプレスや頭上にウエイトを持ち上げるショルダープレスなど、肩甲骨や肋骨が動く動作では、前鋸筋は程度の差こそあれ、刺激を受けているのだ。
しかし、前鋸筋にダイレクトな刺激を与えるならプッシュアップ(腕立て伏せ)に勝る種目はない。 プッシュアップで前鋸筋をダイレクトに刺激するなら、ぜひ手幅を広くしたワイドハンドで行うのがベストだ。手幅を広げれば広げるほど前鋸筋への刺激が増すので、肩に違和感がない範囲で、自分にとって広い手幅を探してみよう
プッシュアッププラス
ワイドハンドで行うプッシュアップのバリエーションのひとつに、プッシュアッププラスがある。ミネソタ大学の実験によると、プッシュアッププラスは、通常のプッシュアップよりも前鋸筋の参加率が50%も多いそうだ。
やり方はこうだ。まずは肩幅より少し広めの手幅で床に手をつき、プッシュアップのスタートポジションをとる。肘を曲げながら床面に身体を下ろしたら、トップまで身体を押し上げる。ここまでは通常のプッシュアップと同じで、次のレップを開始する前に追加して行う動作がある。
身体を押し上げたトップポジションで、平らに保たれている背中を丸めるようにするのだ。このとき、腕の長さは変わらないので、可動域はとても狭いのだが、しっかり力を入れて床を下方に押し込むように意識しよう。背中を丸めたら、再び背中を平らに戻して、次のレップを開始する。
プッシュアップに背中を丸める動作を加えるだけで、前鋸筋への刺激が強まる。動作中は体幹部を十分に緊張させ、前鋸筋への意識を忘れないようにしよう。
ちなみに、このプッシュアッププラスでは、床についた手のひらを軽く外に向けるようにすると前鋸筋の筋活性率が上昇することが実験で分かっている。肩に違和感がない範囲で試してみるといいだろう。
ハンギング・セラタス・サイドクランチ
腹筋のためのハンギング・レッグレイズと同じように、肩幅よりも広めの手幅でチンニングバーにぶら下がる。
ハンギング・レッグレイズなら骨盤を丸めながら脚を身体の正面に持ち上げるのだが、ここでは脚を左右に引き上げるようにする。こうすることで前鋸筋に強い刺激を得ることができる。
この種目では、できるだけ膝を曲げず、動作をコントロールしながら行おう。トップでは一旦停止し、前鋸筋を意識してギュッと収縮させてから、脚をスタート地点に戻す。
動作をしっかりコントロールしないと、惰性で振り子が揺れているだけの動きになってしまうので注意が必要だ。勢いをつけてスイングするのもダメだ。ぶら下がり続けることができないなら、ストラップを使って握力の弱さを補おう。1セットあたり10〜20レップを目標にする。
慣れるまでは動作が難しく感じられるかもしれないが、集中して何度か繰り返すうちに、前鋸筋への刺激が確実に感じられるようになるはずだ。
動作をマスターするまでは正確なフォームに集中し、レップ数にこだわる必要はない。動作をマスターすることができれば、確実に前鋸筋を刺激することができ、前鋸筋が強くなっていけば、目標のレップ数に到達できるはずだ。
バンデッド・チェストプレス/パンチ
バンドを使った種目もひとつ紹介しておきたい。用意したバンドをパワーラックや固定された家具などを利用して、肩の高さの位置に取り付ける。パワーラック(または家具)に背を向けて立ち、後方からバンドを引っ張って両手にバンドのハンドルをそれぞれ握る。
パンチを繰り出すように構え、バンドの張力に抵抗するようにして片腕ずつ前に押し出す。ボクシングのパンチを繰り出すような動作だ。右手のパンチを出すときは、右半身も前に出しながら行う。この際、左半身を引いたりせずに残したままにする。左パンチを出すときは左半身も前に出す。こうして胴部をひねりながら左右のパンチを繰り返す。
前鋸筋への収縮を強めるには、対角線上にパンチを出すのがいい。つまり、右パンチは左方向に向けて行い、このとき、左側の前鋸筋の収縮を意識する。左パンチは右方向に向けて行い、このとき右側の前鋸筋の収縮を意識する。
ここでのパンチング動作はテンポよく行ってもいいし、ゆっくりした動作で、前鋸筋の緊張を抜かないようにして行っても構わない。肝心なことは胴をひねり、前鋸筋をしっかり収縮させることだ。
前鋸筋は先にも述べたとおり、ボクサーズマッスルとも呼ばれる筋肉だ。力強くパンチングをし、前鋸筋をギュッと収縮させることを意識しよう。2分間を1セットにして行ってみるといいだろう。
ボクシングの練習
アスリートの中には、ボクサーが行うようなトレーニングを有酸素運動として組み込んでいる人も多い。ボクシングが目的ではないのだが、サンドバッグを打ち込むような練習はとてもハードな有酸素運動になる。さらに言えば、前鋸筋も鍛えられるのでまさに一石二鳥だ。トレッドミルやバイクなどの有酸素運動も悪くはないが、心肺機能を鍛えることにプラスして何かを得たいなら、ぜひパンチングの練習で前鋸筋を鍛えるのもいいだろう。
スタンディング・セラタス・サイドクランチ
ハイプーリーマシンが使える環境なら、この種目もお勧めだ。
①D字ハンドルを取り付けたケーブルマシンに向かい合うようにして立ち、一歩だけ左側に移動する。こうすると、身体の右側がマシンの正面と向き合うはずだ。
②右手にD字ハンドルを握り、上体を右斜め前に倒す。こうすると、右側の前鋸筋が収縮する。
③上体を元の位置に戻して、軽いストレッチを得たら、再び上体を同じように倒してレップを繰り返す。
④指定のレップ数を終えたら、立ち位置を右にずらし、ハンドルを左手に持ち替えて、左斜め前に上体を倒して左側の前鋸筋を収縮させる。
⑤セットあたり8〜20レップを左右それぞれに行う。
ニーリング・ロープクランチ/プル
この種目は腹直筋の力を借りながら、前鋸筋も刺激できる種目だ。ハイプーリーマシンのケーブルにロープハンドルを取り付け、ケーブルと向かい合ってひざまずく。
ロープハンドルを握り、肘を伸ばしたまま上体を前傾させていき、床方向にケーブルを引き下ろす。上体が床面と平行になったら、そこからへそをのぞき込むようにして背中を丸め、できるだけ前鋸筋と腹直筋を収縮させる。その後、ゆっくりスタートポジションに戻す。
ちなみに、正面だけではなく、右方向、左方向に上体を倒していくと、それぞれの前鋸筋への刺激を強めることができる。セットあたり12〜20レップを目安に行うといいだろう。
前鋸筋も筋肉なので、筋肥大させるには強い負荷が必要だ。しかし、ウエストが太くなるという懸念から、このような種目では高重量が敬遠されているようだが、それは誤解だ。オフシーズンにしっかり前鋸筋を肥大させるためには、使用重量を増やしてしっかり負荷をかけていこう。6〜8レップで限界が来るような重量を使うのが目安だ。
ただし、前鋸筋を含む腹筋のワークアウトで、これまで高重量を扱った経験がない人は、最初は慎重になったほうがいいだろう。胴部の筋肉にいきなり高重量の負荷をかけるとケガの危険性も高まる。どんな部位に対してもそうだが、負荷を増やしていく場合は段階を経ていくようにしよう。
もし高重量を扱いたいなら、このニーリング・ロープクランチは最適な種目だ。この種目は高重量でもフォームが崩れにくく、そのため筋肉への刺激を確実に得ることができる。前鋸筋を含む腹筋のワークアウトで、ハイレップだけでなく高重量にも挑戦したいなら、ぜひこの種目を組み込むようにしよう。