日産自動車は2022年4月25日、現在開発中であるクルマの緊急回避性能の飛躍的な向上につながる先進運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception:地表検知)」技術を発表し、この新技術を搭載した試作車が自動で緊急回避操作を行うデモンストレーションを公開した。
今回、日産が開発したグラウンド・トゥルース・パーセプション技術は、物体の形状や距離などを高精度で認識することができる次世代高性能LiDAR(ライダー:レーザー光スキャナーによる距離、物体の認識装置)とカメラ、ミリ波レーダーからの情報を組み合わせて融合させ、周囲の空間と物体の形状を正確にとらえ、その変化をリアルタイムに把握することで、連続する危険などを自動的に回避させる技術だ。
この技術によりクルマは時々刻々と変化する状況を瞬時に分析し、自動で緊急回避操作を行なうことが可能となる。またこの技術により、前方の渋滞や路上の障害物などを遠方から検知し自動で車線変更することや、ホテル玄関前へのアプローチなど、地図情報が整備されていない敷地内の道における自動運転も可能になる。
この新技術の開発のベースは、アメリカにおける高度運転支援システム(ADAS)搭載車による事故のデータ、分析からスタートしている。つまりADASを装備したクルマでも避けられない事故が発生しており、その事故の発生の原因は、複数の、より複雑な対象物の動きに対応できないことがあることを把握し、これを解決するための次世代のADASを開発することになったのだ。
そのため、走行中に起こりうる様々な状況を想定し、高度な緊急回避制御の開発を加速するため、グローバルに最先端の技術を有する企業とパートナーシップを組み、相互にノウハウを共有しながら、この運転支援技術の開発を進めている。特に重要な要素である次世代LiDAR技術は、現在、世界トップレベルの高性能な技術を持つベンチャー企業の「ルミナー」社と共同で研究開発を進めている。「ルミナー」社は従来より格段に高性能なLiDARを開発し、日産はそれを使用する制御ソフトウエアを開発するという関係になっている。
ルミナー社の次世代LiDARは300m前方を、水平視野角20度、垂直視野角25度の範囲を超高分解能でスキャンし、直接的に前方の空間を検知し、対象物の形状や変化を素早く検知することができる特性を持つ。
一方、カメラは前方の物体の形状や標識、車線などを2次元で検知できるのに適しているが、3次元の対象物を検知するためには複雑な計算が必要で、急激な変化に対応できない性質を持ち、ミリ波レーダーは物体の急激な動機に追従できるが、対象物体の正確な形状を検知するのは不得意なのだ。そのため、高性能なLiDARとの融合制御が重要となっている。
なおLiDARはすでに多くのメーカーが開発、製造に取り組んでおり、すでに市販化されている製品もあり、アウディ、ホンダ・レジェンド、トヨタのアドバンスド・ドライブなどにも採用されている。これらは機械式のレーザースキャン式だ。一方、より安価なLiDARとして半導体式も開発競争が行なわれている。
ルミナー社の次世代LiDARは、従来のLiDARの約2倍となる300mという遠距離を高精度で検知できることが大きな強味だ。この300mという意味は、海外の高速道路で130km/hで走行中に、前方の渋滞末尾の車両を検知し、それを通常の車線変更を自動的に行なうことで事故を回避できるための必要な距離ということなのだ。また遠距離を広い視野角でスキャンするため、検知精度を高めるために分解能0.05度という高い分解能も必要で、これらを満足させるLiDARは現時点でルミナー社が開発している次世代LiDAR以外にはないのが実情だ。
もちろん、精度の高いデジタル環境下での検証技術も重要で、日産は先進的なシミュレーション技術を有する「アプライド インテュイション」社と組み、様々な状況を想定した開発を加速している。
今回の「グラウンド・トゥルース・パーセプション」技術では、周囲の物体の方位、座標を高い精度で検出でき、300m以上という長距離での障害物を把握でき、さらに正確な周辺の環境の計測により自社の移動量の変化を検出でき、そのため、道路ではない私有地の移動でも正確な走行誘導が可能になるのだ。
今回発表されたプロトタイプでは、7個のレーダー(前方1基、両側方4基、後方2基)、10個のサラウンド・カメラにより車両の360度全周の状況を把握し、ルーフ上にLiDARを配置している。
これにより、現在の運転支援システムでは回避できない、突発的で連続する危険を遅れなく検知して回避するという、複雑な事故回避シナリオを実行することができるわけだ。
今後の開発の課題は、LiDARのコスト低減と、より洗練された制御アルゴリズムの熟成、そして世界各地の道路での実証実験などを完了させることだ。
なお日産は、この技術の開発を2020年代半ばまでに完了させ、順次、新型車へ搭載し、2030年までに多くの新型車に搭載して普及を行なうことを目指している。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
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