かつて月は乾燥した砂漠のような場所だと考えられていました。
しかし、アポロ以降の多くの調査研究によって、月の表面には多くの水が存在していることが判明しています。
では、この月にある水は一体どこからもたらされたものなのでしょうか?
1月28日に科学雑誌『Astrophysical Journal Letters』に掲載された新しい研究は、月にある水が地球の磁気圏によってもたらされた可能性を報告しています。
月にある水の起源は、ひょっとすると地球が宇宙に撒いた水だったのかもしれません。
目次
満月に起きる月表面の電場の嵐
地球磁気圏は月に水を撒いていた
満月に起きる月表面の電場の嵐
月の表面は乾いた荒野のように見えます。
しかし、実際は、極地にあるクレーターの影に氷ができていたり、火山岩に結合していたり、月の土壌に錆びた鉄が混じっていたりと、予想よりはるかに多くの水の存在が確認されています。
昔は、地球をはじめ惑星などに水が存在する場合、星系の形成時にもたらされたものが、そのまま保持されているのだと考えられていました。
けれど、現在は水に関連する元素ははるかに動的に宇宙を動き回っていることがわかっていて、火星の表面にも木星の衛星にも土星の輪にも、当初想定されていたよりも、さまざまな場所で水が動き回っていることがわかっています。
特に月にある水などは太陽風が運んだものである可能性が高いと考えられています。
太陽風が吹き飛ばした正に帯電した水素イオンが、月面に衝突したとき、それがヒドロキシル基(OH)や水分子(H2O)を生成したというのです。
しかし、このモデルをシミュレーションすると、月に生成された水の多くは地球の磁気圏を月が通過する際に吹き飛ばされて消失してしまうという結果が示されていました。
地球には磁気圏が存在し、これが太陽風による激しい荷電粒子の流れから地球を守っています。
この磁気圏は太陽風に吹かれて太陽と反対側の地球の後ろに、長い尾のように伸びています。
そして、この部分には磁場が弱く、代わりに高温・高密度のプラズマが存在するプラズマシートと呼ばれる領域が形成されています。
太陽・地球・月の順に並ぶ満月の約3日間、月はこの磁気圏の尾に入り、プラズマシートも通過します。
月は自身を守る磁場を持っていないため、このプラズマシートを通過するとき、電子やイオンの嵐に表面がさらされ、水も吹き飛ばされてしまうと考えられるのです。
またこの期間に、月は太陽風による水の補充を受けられないため、失う量が多いだろうと推測されていたのです。
しかし、これは新しい月表面の水分布に関するデータと大きく矛盾しています。
なぜ、月の表面には多くの水が存在しているのでしょう?
地球磁気圏は月に水を撒いていた
インド宇宙研究機関(ISRO)が打ち上げた月探査衛星チャンドラヤーン1号に搭載された月面鉱物マッピング装置による最新の分析では、地球の磁気圏内に月が入ったあとでも、実際は月面の水が消失していないことが示されました。
この理由について、研究チームは地球の磁気圏イオンの流れが、月に水を補充している可能性があると主張したのです。
JAXAの月周回衛星「かぐや」の観測によると、地球のオゾン層から漏れた高濃度の酸素同位体と、外気圏(地球大気層の最も外側の層、宇宙との境界)に豊富な水素イオンが、磁気圏の流れに乗って、月に水を補充している可能性を示唆しています。
これは月表面の水が、太陽風から供給されていて、磁気圏内では遮蔽されているという仮設に反論するものです。
これまでの観測では、地球のイオンの影響を考慮できるデータがあまりなく、月表面の水が時間とともにどう変化しているか分析することが困難でした。
しかし新たなデータは、惑星の磁場が作る惑星風の影響によって衛星に水が供給されるメカニズムを示したのです。
この研究は、今後の月の調査研究やミッションの設計に影響を与える可能性があり、また宇宙の他の地域でも、水が移動するメカニズムなどの解明に役立つ可能性があります。
水は生命にとって重要な存在であり、宇宙の観測では注目される元素ですが、宇宙では想像以上にダイナミックに水の移動が起こっていたのかもしれません。
参考文献
scitechdaily
元論文
Earth wind as a possible source of lunar surface hydration
提供元・ナゾロジー
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