今回は、力や筋量だけでなく、機能性を重視したベンチプレスのフォームについて解説します。機能的なベンチプレスは一般のトレーニーやアスリートのパフォーマンス向上に貢献できるはずです。

文:井上大輔 <NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会>

機能的なベンチプレスとは?

もし読者の皆さんがスポーツを上達させたいのであれば、ベンチプレスを行うことはスポーツを上達させるための「手段」であるべきで「目的」であってはうまくいかないということになります。もしベンチプレスを行うことが目的になってしまうと、ベンチプレスで100㎏挙上できるようになったのに、肝心のスポーツのパフォーマンスが向上しないという結果になってしまいます。当たり前ですが、よく陥りがちなことなのです。
ベンチプレスで一番高重量を挙上することができる人は、パワーリフターやベンチプレッサーかもしれません。彼らはベンチプレスのプロフェッショナルなので、ベンチプレスはパワーリフターかベンチプレッサーに教わればいいということになります。

しかし彼らはベンチプレスの重量を競うことにフォーカスするので、目的の重量を挙上できたなら、肩関節の可動域が多少下がっても問題はないはずですし、ゴルフの飛距離が伸びなくてもいいということになります。重量を競うことにフォーカスしたベンチプレスを行うことで、ベンチプレスを挙げること以外の目的に対する効果は保証できないのです。

ベンチプレスやパワーリフティング競技の人たちで誤解を生みやすいのが、ベンチプレス自体が「競技」として成立している点です。強いて言えば、ベンチプレス自体がサッカーや野球と同じスポーツなので、その技術はスポーツとして「特化」しています。

野球の技術が向上しても、そのままゴルフの技術が向上するわけではないことと同じように、競技のベンチプレスを目標にすると、ベンチプレスの挙上重量は上がりますが、肝心な目標に対する効果を失ってしまうことにもなるのです。従ってYouTubeやSNSでベンチプレスの行い方の動画が上がっていますが、もしあなたが何か目的があってベンチプレスを行う場合、その動画の内容がどのような目的のためのベンチプレスの方法なのかを確認したほうが良いと思います。できれば専門家に習うのが良いと思います。

今回は力や筋量だけでなく、機能性を重視したベンチプレスのフォームについて解説します。機能的なベンチプレスは一般のトレーニーやアスリートに次のような恩恵をもたらします。
①肩甲骨が安定する
②上半身の筋力が向上する
③肩関節の柔軟性が増す

これらの恩恵を受けることができたなら、使用重量の伸び率がゆっくりであったとしても、日常生活およびスポーツパフォーマンス向上に貢献することができるはずです。それでは具体的なやり方を解説します。

機能的ベンチプレスのやり方 最初にベンチプレスの台に横になります。そのとき腰を反らさないように行います。(写真1−1)のように反った状態では、人間が動く際に最も必要な「腹圧」が入りにくくなり、腰を痛めたり、最大限に力を入れることができなくなったりします。正しい姿勢は(写真1−2のように)腰を反らさずに胸を引き上げるようにします。これを「チェストアップ」と言います。

ベンチプレスを間違ったフォームでやっているかもしれない!「手段」にするか「目的」にするかでやり方が違う
(画像=1-1 腰を反った腹圧が入りにくいNGフォーム、『FITNESS LOVE』より引用)
ベンチプレスを間違ったフォームでやっているかもしれない!「手段」にするか「目的」にするかでやり方が違う
(画像=1-2 腹圧が入ったチェストアップの姿勢、『FITNESS LOVE』より引用)

前回の連載でもお伝えしたように、肩甲骨を寄せると肩を痛めやすい、もしくは硬くなってしまうので、肩甲骨を寄せないようにします。お腹は膨らましてもへこましても、何も意識しなくてもいいと思います。大切なのは体幹が安定しているという点です。

次にベンチに寝た状態で、バーを握ります。このときバーを握る位置は(写真2−1)のように肩幅より少し広いぐらいのレギュラーグリップになります。そして手首を確認します。(写真2−2)のように手首の真上にバーが位置するようにします。(写真2 −3)のように手首の背屈が大きいなら、このフォームは肩を痛める危険が高くなります。

ベンチプレスを間違ったフォームでやっているかもしれない!「手段」にするか「目的」にするかでやり方が違う
(画像=2-1 肩幅より少し広いレギュラーグリップ、『FITNESS LOVE』より引用)
ベンチプレスを間違ったフォームでやっているかもしれない!「手段」にするか「目的」にするかでやり方が違う
(画像=2-2 手首の真上にバーが来るようにする、『FITNESS LOVE』より引用)
ベンチプレスを間違ったフォームでやっているかもしれない!「手段」にするか「目的」にするかでやり方が違う
(画像=2-3 手首が背屈したフォーム、『FITNESS LOVE』より引用)

最後にバーを下ろすときは、脇を締め気味に行います。(写真3−1)これは肩甲骨を安定させるためです。脇を広げて肩甲骨が不安定な状態で行ってしまうと、肩を痛める危険が出てきます。スポーツを行っている人の優先順位で一番高いのは「ケガをしない」ということです。従って脇を締め気味に行う方法を推奨します。

ベンチプレスを間違ったフォームでやっているかもしれない!「手段」にするか「目的」にするかでやり方が違う
(画像=3-1 脇は締め気味に行う、『FITNESS LOVE』より引用)

以上、機能的なベンチプレスのフォームについて解説しましたが、これらのことはほとんどのテキストに載っているごく当たり前のフォームです。しかし、基本ができていなくて、応用を行うと必ず頭打ちになってしまいます。トップアスリートのトレーニングを真似して行うことも良いと思いますが、もしベンチプレスが頭打ちになったならば基本に戻り、追求していくことが解決への一番の近道であると思います。

井上 大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/ NSCACSCS/NPO 法人JFTA 理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF 全日本選手権 第6位。
NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会 TEL:078-707-3111

提供元・FITNESS LOVE

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