私たちは今日、映画やアニメ作品を好きなときに好きなだけ観られる、恵まれた環境に生きています。
それに比べると、先史時代の人類は、石版や岩壁に絵を描いて、静止画を楽しむのが限界だったでしょう。
しかし、そうとも言い切れない驚きの研究が発表されました。
英ヨーク大学(University of York)、ダラム大学(Durham University)の研究チームは、旧石器時代の石版に見られる動物の彫刻や加熱の跡をつぶさに分析。
その結果、古代人は、ゆらゆらと揺れる火明りを利用して、動物の絵が動いて見える「アニメーション効果」を利用していた可能性があるというのです。
まさに古代人は、火の揺れを使って、静止した絵をアニメイト(生命を吹き込む)していたのかもしれません。
研究の詳細は、2022年4月20日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されています。
火の揺れを利用して「アニメーション」を作っていた?
人類は何万年も前から、幾何学模様や動物の絵を描いていました。
ただ、それらの目的が何なのか、はっきりしたことを言うのはとても困難です。
個人の娯楽から仲間とのコミュニケーション、あるいは儀式的な用途まで、あらゆる仮説が立てられてきました。
しかし、19世紀に南フランスで出土した50枚以上の石版が、それまでになかった新しい解釈を与えてくれたのです。
これらの石版は、フランス南部のモンタストリュック(Montastruc)近郊にある旧石器時代の遺跡から発見されたもので、約2万3000年〜1万4000年前の初期の狩猟採集文化に属すると考えられています。
研究チームは、大英博物館に保管されているこれら54枚の石版を借りて、調査を開始しました。
そこには、合計76個の動物彫刻が彫られていて、馬が40個と多く、次いでトナカイが7個、アカシカが6個、他には牛や狼、鳥、人の図像も見られました。
そして、これらの石版のほとんどに高熱による変色の跡があったのです。
これは、これらの石版が火のすぐ側に置かれていたことを意味しています。
また、最も興味深い点は、動物たちの絵が奇妙に重ねられて描かれていることでした。
これは、別々の個体を並べて描いたというより、同じ個体の異なるポーズを重ね合わせたように見えます。
そのため、一つの胴体に頭が2つあったり、手足が余分に生えているように見えたのです。
イメージするなら、パラパラ漫画の各コマを同じページに描いているようなものでしょうか。
「火による変色」「重ね合わされた動物の絵」、この2点から研究チームは、それが単なる静物画ではなく、火に照らされて動いて見える動画として鑑賞されたのではないか、と考えました。
これを検証するべく、動物の絵が施された石版の3Dモデルを作成し、仮想現実ソフトウェアを使って、火明りに照らして観察しました。
すると、揺らめく火の光に照らされて、動物の絵の一部が強調されたり、影の中に隠れたりを繰り返すことで、まるで動いているかのように見えたのです。
もちろん、本物そっくりの動きや現代のアニメーション技術には程遠いですが、それでも古代人を驚嘆させるには十分だったでしょう。
研究主任のアンディ・ニーダム(Andy Needham)氏は「これまで、石版によく見られる変色の跡が謎めいていましたが、本研究の成果から、動く絵を見るために意図的に火の側に置かれた可能性が高い」と指摘。
「食料や水、シェルターを探すのに膨大な時間と労力を費やしていた時代に、このような芸術を創作する能力を見出したことは、先史時代の人々の認知機能がいかに複雑であったかを示唆します。
こうした芸術活動が、何千、何万年もの間、人間を人間たらしめてきたのでしょう」
古代人も休息日には、家族や仲間で寄り集まって焚き火を囲み、アニメーションを楽しんでいたのかもしれません。
アニメーターはいつの時代でも、人々を楽しませる存在だったのでしょう。
参考文献
These Ancient Stone Etchings Could Be an Extremely Early Form of Animation
Prehistoric people created art by firelight, new research reveals
元論文
Art by firelight? Using experimental and digital techniques to explore Magdalenian engraved plaquette use at Montastruc (France)
提供元・ナゾロジー
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