まるで「宇宙船」のような新種の深海クラゲが発見されました。

今回、米カリフォルニア州・モントレー湾水族館研究所(MBARI)のチームが新種として記載したのは、カムリクラゲ目(Coronatae)の「アトゥーラ(Atolla)属」に分類されるクラゲです。

アトゥーラが分布するのは、水深1000〜4000mの漸深層(ぜんしんそう)で、太陽光の届かない領域であるため、別名・ミッドナイトゾーン(midnight zone)とも呼ばれます。

報告によると、今回の新種の記載には約15年を要したとのことです。

研究の詳細は、2022年3月16日付で科学雑誌『Animals』に掲載されています。



目次




「まるで宇宙船」、発見から15年越しに新種と特定!

アトゥーラ属のクラゲは現在、世界に10種ほど知られており、傘の直径が10センチに満たないものがほとんどです。

MBARIの2万7600時間以上に及ぶビデオアーカイブには、数千匹ものアトゥーラの観察記録が保存されています。

アトゥーラを他の深海クラゲと見分けるポイントは、1本だけ長く伸びた大きな触手です。

アトゥーラはどの種もたいてい、傘の直径の6倍ほどまで伸びた触手が1本だけあります。

ところが、MBARIの過去15年にわたる調査の中で、1本だけ肥大した触手を持たない、アトゥーラと思しきクラゲ標本がたびたび捕獲されてきました。

そしてこのほど、形態学および分子生物学的な分析により、アトゥーラ属の新種であることが特定されたのです。

新種のアトゥーラが遊泳する姿 / Credit: MBARI (Monterey Bay Aquarium Research Institute, youtube/2022)

新種の学名は、1984年に設立されたモントレーベイ水族館の最初のボランティアであるジェフ・レイノルズ(Jeff Reynolds)氏にちなみ、「アトゥーラ・レイノルディ(Atolla reynoldsi)」と命名されました。

レイノルズ氏は、モントレー湾の浜辺に打ち上げられたクジラを一晩中見守ったり、座礁したラッコの子どもを救助してリハビリをしたりと、水族館の画期的な取り組みを始めた人物として、MBARIの研究者たちの間で有名です。

レイノルズ氏は「新種に私の名前をつけていただき、大変光栄に思います。42年間水族館でボランティアとして働いてきたことは、とても素晴らしく、やりがいのある経験でした」と話しています。

クルマが一瞬で木端微塵に!クラッシュテストってどうやってるの?
(画像=新種を横から見た姿 / Credit: George Matsumoto et al., Animals(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

赤色の腸は「十字形」になっている

さて、A. レイノルディの標本は、2006年4月から2021年6月までの間に、わずか10個体しか発見されていません。

今のところ、本種はモントレー湾の深海でのみ知られており、水深1013〜3189mで見つかっています。

ただ、A. レイノルディは、分子的にも形態的にも既知の10種とは明確に区別されました。

傘の最大直径は13センチに達し、これはアトゥーラ属の中でも最大級です。

半球形の傘の外縁は溝状になっており、そこから二又に分かれた人の歯のような突起が無数に生えています(下図参照)。

そして、傘と突起を分ける溝の部分から、平均26〜39本の触手が生え出ています。

アトゥーラ属に見られる1本だけ肥大した触手はありません。

さらに、傘から透けて見える赤色の腸は、ギリシア十字のような形をしていました。

クルマが一瞬で木端微塵に!クラッシュテストってどうやってるの?
(画像=上から見たA. レイノルディのスケッチ(左)、ギリシア十字(右) / Credit: George Matsumoto et al., Animals(2022)、ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

上から見た姿は、まるで「宇宙船」のようです。

また本種の他にも、アトゥーラ属の新種と思しき標本が2タイプ見つかっていますが、現時点では既知種との区別ができていません。

これについて、研究主任のジョージ・マツモト(George Matsumoto)氏は「これらの発見は、地球上で最も大きな生命空間である海洋について、私たちがまだほとんど何も知らないことを思い起こさせる」と話します。

深海の世界は大部分が謎に包まれており、火星の表面の方がまだ多くのことがわかっている、と言われます。

まさに深海は、人類が探査すべき”もう一つの宇宙”なのです。

提供元・ナゾロジー

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