IEA(国際エネルギー機関)が「2050年ネットゼロ(CO2排出実質ゼロ)のために化石燃料への投資をゼロにすべきだ」と呼びかけたことが、今の世界的なエネルギー危機の一つの原因です。そのコストはどれぐらいかかるのでしょうか。2021年6月15日の記事の再掲です。

CO2排出を2050年までに「ネットゼロ」にするという日本政府の「グリーン成長戦略」には、まったくコストが書いてない。書けないのだ。まともに計算すると、毎年数十兆円のコストがかかり、企業は採算がとれない。それを実施するには、政府の補助が必要だが、そんな財源はない。
化石燃料への投資をゼロにせよ
この点でIEA(国際エネルギー機関)の出した「ネットゼロ」ロードマップは正直である。その前提となるシナリオでは、2050年までに化石燃料への投資をゼロにし、全世界の電力の90%をクリーン・エネルギー(再エネ・水素・原子力など)でまかない、1次エネルギーの60%を再エネでまかなうことになっている。

そのコストは次の表のように、先進国では2025年にカーボンプライス(炭素税)が75ドル/トンから始まり、2050年には250ドル/トン。この数字はピンと来ないと思うが、ざっくりいって250ドルの炭素税は、日本では毎年36兆円。消費税に換算すると17%である。

ネットゼロを実現するための炭素税(ドル/トン)IEA
ネットゼロに必要なコストは毎年114兆円
他のシナリオの見積もりは、もっと大きい。世界の中央銀行の有志によるNGFSのシナリオでも、2020年代に160ドル/トンから始まり、最悪の場合は1.5℃上昇(ネットゼロに対応)に抑えるコストが、2050年に800ドル/トンになると推定されている。これは毎年114兆円、消費税に換算すると52%である。

ネットゼロを実現するための炭素税(ドル/トン)NGFS
ネットゼロの目的は、2100年までに産業革命前から3℃上昇すると予想される気温を、1.5℃上昇に抑えることだ。これはIPCCが2018年に提言した目標で、2030年までに46%削減という日本政府の目標は、その論理的な帰結である。