多くの科学者が環境問題に目を向け、バイオテクノロジーの分野を開拓しています。
マテリアルデザイナーであるジェーン・キーン氏もその一人であり、バクテリアと協力して素材を織る「微生物織り」によって靴を作成しました。
このバクテリアをコントロールして作成する織物は、軽量かつ高い強度を誇るため、天然素材として幅広い可能性をもっています。
目次
微生物が靴のアッパーを作る
バクテリアが織る「微生物織り」
微生物が靴のアッパーを作る
キーン氏が靴を作成するために注目したのは、天然素材を生成する微生物です。
微生物とは顕微鏡などを利用してはじめて見える非常に小さな生物の総称で、バクテリア(細菌)もこれに含まれます。このバクテリアには様々な種類があり、その能力も多様です。
その中でも、紅茶キノコに見られるK.レティクスバクテリア(学名:Komagataeibacter rhaeticus)はセルロースという天然素材を効率よく生成してくれます。ちなみに紅茶キノコとは砂糖を入れた紅茶や緑茶にさまざまな微生物をいれて発行させた飲料のことです。
しかしキーン氏は紅茶キノコに見られる微生物が生成する「天然素材」だけに注目したのでありません。むしろ、微生物が素材を「生成する行為」そのものに焦点を当てました。
彼女はこのK.レティクスバクテリアに、靴のアッパー材を「作ってもらう」ことにしたのです。
アッパーとは靴のソール(靴底)を除いた足の甲を覆う部分であり、一般的には牛革や合成皮革、天然繊維(植物や動物の毛)、合成繊維などを人間が加工してアッパー材へと仕上げます。
しかし新しい「微生物織り」と呼ばれる手法では、バクテリアがアッパー材をそのものを生成してくれるのです。
バクテリアが織る「微生物織り」
微生物織りは、最初にジェーン氏が一本の連続したセルロース経糸(たていと)を織ることで始まります。
その後はバクテリアがナノレベルで緯糸(よこいと)を成長させてくれるため、人間の手が加わること無く、一枚の織物が完成するのです。
この微生物織りは環境に優しいだけでなく、高い強度をもっています。
通常の織物は人間が機械によって織るため、織り方向が限定されます。そのため、どうしても方向によって強度が異なってしまいます。
しかし微生物織りは、微生物が従来の織りでは不可能な織りパターンを形成するため、あらゆる方向に高い強度を持つのです。
さらに軽量かつ透明な素材に仕上がるため、高性能複合材料として、また生物医学的用途として様々な分野に応用できるでしょう。
さて、今回の微生物織りは、微生物をコントロールして作り出したものです。
今後、微生物の生成物やその生成方法を利用して、これまでにない安全で有用な材料を生み出せるかもしれません。
参考文献
designboom
提供元・ナゾロジー
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