中小企業の「税金をごまかす権利」
このように政治家が税金をごまかす権利を公然と主張する先進国は、日本とイタリアぐらいだろう。それが次の図のように、日本のキャッシュレス比率が20%と異常に低い原因である。マイナンバーなどの国民IDがきらわれる原因も同じだ。

では、この税金をごまかす権利の起源は何か。私は百姓一揆ではないかと思う。江戸時代初期には「五公五民」といわれた年貢は、1700年以降は新たな農地に課税できなくなって実効税率が下がり、幕末には「一公九民」ぐらいになったといわれる。
これを増税しようとする領主に対しては百姓一揆が起こった。戦争の続くヨーロッパの都市では、税は軍事サービスの対価だったが、平和な日本では領主と百姓一揆の交渉の結果だったので、年貢は少なければ少ないほどよく、それは百姓の政治力の証しだった。
明治以降は税は地租(固定資産税)だけだったので、税率を決めたのは税務署と地主の力関係であり、公定の税率はあったが、有名無実だった。税金をごまかす力が大地主の政治力であり、民政党の集票基盤だった。
戦後はシャウプ税制で直接税中心になったが、サラリーマンが源泉徴収で所得を100%捕捉される一方、法人税には多くの抜け穴(租税特別措置)ができた。消費税はこういう抜け穴だらけになって空洞化した直接税中心の税制を建て直すものだったが、中小企業を集票基盤とする自民党は徹底的に抵抗し、野党もこれに合流した。
今も自民党税調は財務省に対する百姓一揆のようなもので、公明党だけでなく、共産党の支持母体である民主商工会も中小企業の節税対策が最大の仕事である。もちろん彼らは「税金をごまかしにくいから消費税はいやだ」とはいわない。「逆進性」とか「痛税感」などのスローガンで、情報弱者を利用するのだ。
文・池田 信夫/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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