魚に使われたクスリをAIで判定できるようです。
ロシアのサンクトペテルブルク大学(SPbU)で行われた研究によれば、クスリ漬けにしたゼブラフィッシュの行動をAI(ニューラルネット)に学習させたところ、魚の動きを見るだけで、使われたクスリをある程度予測できるようになった、とのこと。
研究ではMDMAやLSD、メスカリンなどの幻覚剤やコカインなど有名な違法薬物に加え、ケタミンなどの麻酔薬や身近なニコチンやカフェイン、エタノール(酒)など幅広い薬物がゼブラフィッシュに投与され、行動パターンの解析が行われました。
もし同様の仕組みが人間にも応用できれば、違法薬物を使った人間を街頭カメラなどで即座に発見すること可能になるかもしれません。
研究内容の詳細は『Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry』にて掲載されています。
目次
魚を「クスリ漬け」にして行動変化をAIで読み取る研究が発表
魚の行動をみるだけで使われた薬物を判別できた
魚を「クスリ漬け」にして行動変化をAIで読み取る研究が発表
これまでの研究によって、人間に作用するさまざまな精神薬が、魚やザリガニなどの水生生物の行動に影響を与えることが示されてきました。
たとえばフロリダ大学で行われた研究によれば、人間の体から排出された抗うつ薬がザリガニの性格を大胆にしている可能性が報告されています。
またチェコ生命科学大学プラハで行われた研究では、薬物乱用者から排出された覚せい剤(メタンフェタミン)が魚を薬物依存に陥らせており、さらには人間と同じ禁断症状まで発症しうることが示されました。
人間に作用する薬が魚やザリガニにも効くのは奇妙だと思う人もいるかもしれません。
しかし人間の脳は魚やザリガニに比べて格段に複雑で巨大なものの、神経細胞が行う情報伝達の仕組みや伝達に使う物質そのものはほとんど同じであることが知られています。
この事実は生命進化において脳は複雑化・巨大化することはあっても、基本的な仕組みや情報伝達に使う物質が変わっていないことを示します。
そのため魚やザリガニに対する精神薬の影響を調べることで、精神薬が人間の行動に与える影響を予測することが可能になっています。
そこで今回、サンクトペテルブルク大学の研究者たちは、ゼブラフィッシュに対してさまざまな精神作用のある薬物を投与して、行動パターンがどのように変化するかをAIの一種であるニューラルネットを用いて調べることにしました。
ニューラルネットは脳の神経活動をコンピューターでシミュレートしたものであり、神経回路網(仮想)を高速で再編成することで、単一課題においては人間を凌駕する能力を持つことが可能になっています。
ニューラルネットが獲得した高度な判別機能は、クスリ漬けにされた魚たちにどのような特徴を見いだしたのでしょうか?
魚の行動をみるだけで使われた薬物を判別できた
魚をクスリ漬けにすると何が起こるのか?
調査にあたってはまず、魚に対して複数の薬物が与えられ、行動パターンの変化をニューラルネットを用いて学習させました。
学習が終了すると研究者たちは次に、別に用意しておいたクスリ漬けにされた魚をニューラルネットに提示して、どの薬物が使われたかを予測させました。
結果、麻酔作用のあるケタミンとフェンサイクリジン(PCP)、中枢神経を覚せいさせるアレコリン、タバコにも含まれるニコチン、幻覚剤として知られるMDMA、大麻に含まれることが知られているTHCを与えられた魚を、高い精度で判別することに成功します。
特にケタミンによる行動変化は特徴的で、ニューラルネットの高度な判別能力に頼らなくても、クルクルと顕著な円形行動を引き起こすことが確認できました。
また行動パターンを比較したところ、幻覚剤として知られるLSDを投与された魚は、同じく幻覚剤の一種であるMDMAとよく似た行動パターンをしはじめることが判明します。
LSDはセロトニンを過剰放出させるる一方でMDMAはセロトニンの阻害を起こし、脳に対する異なる作用機序を持っています。
魚がこれら2種の薬物に似たような反応を示したという結果は非常に興味深いと言えるでしょう。
研究者たちは、これらの薬物は魚に対して人間と類似したサイケデリックな作用(幻覚など)をみせている可能性があると述べています。