生物発光(Bioluminescence)は、ホタルや菌類、深海魚など、自然界のあらゆる場所で見られる「生きた光」です。

フランスのスタートアップ企業・Gloweeは現在、この「生きた光」を照明器具に変えるプロジェクトを進めています。

2014年に設立された同社は、発光細菌からなる液体原料を作り、それを水槽チューブに満たしたユニークな照明器具を開発しました。

そして2019年、パリ南西約50キロにある町ランブイエ(Rambouillet)は、Gloweeとパートナーシップを結び、10万ユーロ(約1400万円)を投じて街を「本格的な生物発光研究所」にすることを決定。

フランスの小さな町が今、生物発光照明のメッカになりつつあります。

目次
海洋性細菌の「代謝」を利用した発光照明
LEDに比べて、光が弱い

海洋性細菌の「代謝」を利用した発光照明

「発光生物のランプ」 幻想的な照明器具をフランス企業が開発!
(画像=発光微生物からなる液体原料を入れたチューブ / Credit: Glowee、『ナゾロジー』より引用)

Gloweeの開発した生物発光照明の光は、フランス沖で採取された海洋性細菌「アリイビブリオ・フィシェリ(Aliivibrio fischeri)」によるものです。

A. フィシェリは、「代謝」による生化学的プロセスによって発光し、ターコイズブルーの柔らかく幻想的な光を放ちます。

これを照明用チューブにパッケージングする前に、海水水槽で培養し、適度な量のA. フィシェリで満たされた液体原料を作ります。

チューブに入れた後は、基本的な栄養素と空気を送り込んで、循環させながら酸素を供給し、代謝によって発光させます。

そのため、彼らが消費する栄養素を作る以外には、ほとんどエネルギーが必要ありません。

そして、「灯を消す」には、空気の供給を遮断し、A. フィシェリを嫌気(酸素のない)状態におくことで、発光しなくなります。

「発光生物のランプ」 幻想的な照明器具をフランス企業が開発!
(画像=酸素供給のコントロールで明かりのオン・オフも自由自在 / Credit: Glowee、『ナゾロジー』より引用)

この製造工程は、LED照明の製造よりも水の消費量やCO2排出量が少なく済み、液体も生分解性となっています。

また、通常の街灯のように電力網に接続する必要がなく、消費電力も大幅に削減可能です。

Glowee創業者のサンドラ・レイ(Sandra Rey)氏は「私たちの目標は、都市の光の使い方を変えることです」と説明。

「微生物が作り出す発光は、私たちの生活を照らし出す、エネルギー効率の良い持続可能な方法となります。

市民や環境、生物多様性をより尊重した環境を作り、従来の電灯に取って代わる真の代替案として、この新しい光の哲学を広めたいのです」

「発光生物のランプ」 幻想的な照明器具をフランス企業が開発!
(画像=環境に優しく、消費電力も大幅に削減できる / Credit: Glowee、『ナゾロジー』より引用)

1879年に最初の電球が開発されて以来、現在にいたるまで照明の作り方はほとんど変わっていない、とレイ氏は主張します。

1960年代に登場したLED電球は、照明のランニングコスト(維持管理費)を大幅に削減しましたが、化石燃料を燃やして作る電気に頼っていることに変わりありません。

その中で、生物発光は、環境に優しい次世代の照明器具となるでしょう。

しかし一方で、生物発光照明を普及させるには、解決すべき問題があります。

LEDに比べて、光が弱い

最大の難点は、市場に出回っている大半のLED電球より、光量が少ないことです。

Gloweeの生物発光照明は、1平方メートルあたり15ルーメンの明るさとなっています。

これは、公園や広場の公共照明に最低限必要とされる1平方メートルあたり25ルーメンに遠く及びません。

これに対し、220ルーメンの家庭用LEDスポットライトは、床1平方メートルあたり約111ルーメンを出力することができます。

また、チューブ内のA. フィシェリは、今のところ数日から数週間しか生き延びられません。

それから、栄養素を与えて、成長・増殖するたびに液体を希釈する必要があります。

(細菌が増えすぎると、その分だけ酸素の消費量が増え、発光しなくなる)

さらに、専門家の指摘によると、「微生物発光は温度依存性が非常に高く、冬時期でもうまく発光するかわからない」という。

こうした点を解決しなければ、公共の場での実用化は困難でしょう。

「発光生物のランプ」 幻想的な照明器具をフランス企業が開発!
(画像=生物発光を内蔵した公共家具を作る予定も / Credit: Glowee、『ナゾロジー』より引用)

Gloweeは、これらの難点を認めながらも、「生物発光照明には、環境的にも経済的にもメリットがある」と主張します。

チームは現在、細菌が作り出す光の強度を高めるべく、さまざまな温度や圧力に晒して研究を進めているところです。

また、この照明は現時点で、小型の水槽チューブしかありませんが、近々、生物発光を内蔵した屋外ベンチなど、数種類のストリート・ファニチャー(街路に設置される公共物)を生産する予定とのこと。

さらに、本プロジェクトの注目度は高く、フランスの玄関口であるシャルル・ド・ゴール国際空港でも、生物発光照明の設置計画が進められています。

「発光生物のランプ」 幻想的な照明器具をフランス企業が開発!
(画像=街に配置された生物発光ランプ / Credit:Glowee、『ナゾロジー』より引用)

Gloweeは、照明の実用化のため、フランス、ベルギー、スイス、ポルトガルの40都市と交渉中であるという。

ランブイエ市役所の公共スペース責任者であるギヨーム・ドゥエ(Guillaume Douet)氏は「この試みが成功すれば、国全体の変革につながる」と指摘。

「これは、明日の都市を考えるものです。このプロトタイプが本当にうまくいけば、大規模な展開が可能になり、現在の照明システムを大胆に置き換えることができるでしょう」


参考文献

The French town where the lighting is alive

A small French town is thrust into the light by bioluminescent organisms


提供元・ナゾロジー

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