グローバル・アナリストとのディスカッションを通し、私自身がアパレル産業の世界潮流を学びつつ、公開できる情報を持って本稿で日本企業に警報を鳴らしてきた。そのディスカッションにおいて、ユニクロ(日本)、ZARA/H&M(欧州)、Shein (中国)の3極体制について、以下のような将来像を見た。
①ファーストリテイリングは定まらない国の方針によって、右往左往するだろうということ
②ZARA/H&Mは新しい「勝ち筋」をつくってゲームチェンジを行うだろうということ
③Sheinは先進国のだらしない在庫管理により、世界のZ世代を囲い込み成長しているものの、SDGs対応できず、世界からは認められない可能性があること
ファーストリテイリングについては、予断を許さない世界情勢や国家間の政治に翻弄されつつも、上半期で最高利益をだすなど底力をみせたようだ。今日は、②ZARA/H&Mの動きについて語りたい。

新しい勝ち方の定義「HIGG Index」
「HIGG Index」(ヒグ・インデックス)とは、WWDによれば、「アパレルの世界的な業界団体であるサステナブル・アパレル連合(SAC)が2012年に開発した環境・社会負荷の測定ツール」とのことだ。SACには36カ国250超の企業やNPOなどが加盟しており、約1万8000社が活用しているという。
海外では、H&Mが、日本ではアダストリアがヒグ・インデックスを採用している。こうしたゲームルールは、本来、企業間、国際間で競争を超えて経済性と環境・人権対応に照らし合わせ定義してゆくものだ。私は日本のアパレルや省庁に対して「こうしたインデックスやルールの枠組みを一刻も早く作りアジアのリーダーとなれ」と言い続けてきた。
以下、ヒグ・インデックスの詳細について、改めてWWDでは以下のように解説しているので引用したい。
同ツールは各素材の環境負荷をスコア化して公表するというもの。数値は業界の共通ツール「ヒグ・マテリアルズ・サステナビリティ・インデックス」で10年に渡って収集したデータを、第三者機関が検証して得た基準値に基づく。スコアは標準値とレベル1〜3で評価し、従来の素材に比べて最も環境負荷が少ない素材にはレベル3を表示する。また、水の使用、地球温暖化、化石燃料の使用、水質汚染などへの影響に関する詳細なデータも合わせて表示する。
ご存じの通り、アパレルビジネスの環境負荷は主に製造過程で発生し、ここについては、私が今夏に出版する新刊で詳しく解説しているのでご参照いただきたい。一方、日本のアパレルの生産は98%が海外で、コントロールが極めて難しい。従って、唯一の解決方法は、日本が先んじて、アジア版のヒグ・インデックスを作り、採用工場からの輸入関税を5%下げる、優遇税制を適応する以外にないと私は今でも信じている。工場からしてみれば、出荷ベースの金額に▲5%の優遇税制が適応されれば、アジア工場はこのIndexを使うようになり大きな経済メリットを享受でき、この日本発の「ゲームルール」をアジア全域に適応できるからだ。しかし、こうした産業戦略的な動きは全く見えず、むしろ個別の企業にやりたいようにやらせ、海外の工場は「基準だらけ」となり、最近では日本市場からの撤退の動きさえ見せている。
WWDによれば、
「H&M」は、サステナブル・アパレル連合(SAC)とヒグ(HIGG)が共同開発した新たな素材の環境負荷測定ツール「ヒグ・インデックス・サステナビリティ・プロファイル(Higg Index Sustainability Profile)」を欧州と米国のオンラインストアで販売する一部商品を対象に導入した。
ということだ。
2021年6月、つまり、1年も前に報道されており、2022年、つまり今年にはオンラインの世界に広めてゆくという野望をもっているようだ。こうした「標準化」「ルール作り」こそ、国が引率して世界に見せることが、「新しい資本主義」の具体化ではないのかと思うのだが、そのような動きは見えない。ファーストリテイリングは、上半期決算発表の場で、「私企業だから自由にできることが多い」と言っていたが、彼らのような強い企業だけでいえばそうなのかもしれないが、視点を日本のアパレル産業に向ければ、その私企業に自由にやらせていたから、DXも世界化も進んでいないのではないか。実際、日本の商社の人に「これから、SDGs対応を迫られますよ」と説明しても、「具体的に何をしたらいいのですか」と聞き返してくる企業も多い上、この領域で他産業のSDGS対応知見を持っている総合商社についても、伊藤忠商事などを除き、ほとんどが、繊維・アパレルからは離れて行っている。
一方、アパレル側に話を聞けば、未だコストダウンに血まなこで、頼みの商社を外し直貿化した結果資金繰りが悪化。そういう状況だから、世界化など眼中になく、幾多の公開資料を見せ、今世界に投資をしなければ、今後10年を生き残ることは難しいと話しても、いまだバブル時代の神風が日本で吹くと思っているようで、「その気は無い」と話にならない。
こうした状況で最も可哀想なのが、大人の利害調整と政治ゲームに興じる姿に、未来に絶望を感じている若者だ。先日、多くの若者にアパレル産業についてどう思うかと聞けば、ほぼ皆が「不安で仕方ない」という。立場の違いとはいえ、私たち大人は、時間軸(将来)、空間軸(世界化)を超え、もう少し広い目で産業を捉えられ、少なくとも将来への確かな道筋をつくれないものかと感じている。
一般論的なD2Cは、アパレルD2Cに転用できない理由

一事が万事こういう状況だから、私が、もはや自力での産業再生は不可能。したがって、金融主導の再編が起きると言い続けてきたわけだ。実際、この夏までに買収されるアパレル企業の数はさらに広がるだろう。読者の皆さんは、上場している有名アパレル企業の決算書を見てもらいたい。現金に未収入金、商品を足したものが流動資産で、販管費が一年間にアパレルが必用な固定費の多くだ。ほとんどのアパレル企業が自転車操業をしていることが分かるだろう。
さて、こうした事情からか、最近は、海外アパレル関係者から、クローズな企業内講演を頼まれることが多くなり、特に日本のアパレルが起死回生の一撃と信じているD2Cについての意見を求められることが多くなった。告白すれば、私は他の有識者の本をスルーしてきた。しかし、海外からの講演という大役を授かれば、さすがにいい加減なこともいえず、日本でD2Cがどう捉えられているかを一般論として認識するため、いくつかの書籍を拝読させていただいた。だが、その内容は首をかしげるものが多いのが実態だった。まず、書籍のほとんどが、D2Cの事例として、化粧品のケースばかりを説明する。例えば、資生堂であればエリクシール、インテグレートなどのブランドで、富士フイルムであればアスタリフトである。つまり、「製造業=ブランドホルダー」なのである。
したがって、「製造業→流通→小売→消費者」というバリューチェーンを飛ばし、「製造業with EC→消費者」にすることで、流通コストが下がり、消費者とも繋がることができる、という理屈をベースにしているわけだ。もちろん、これは分からないでもないロジックだ。
しかし、アパレル産業への適用はムリがある。なぜならアパレルのバリューチェーンは
「原材料メーカ・付属メーカ→染色工場→縫製工場→商社→アパレル(ブランドホルダー)→小売」であり、ブランドホルダーはずっと川下のアパレルだからだ。
しかも、最近はSPA化が進み、百貨店などの委託消化は減ってデベロッパー物件に出店するビジネス(委託消化ではなく、賃借系契約)に置き換わっている。

そのため、現在の多くのアパレルのバリューチェーンは、SPA化が進み、
「原材料メーカ・付属メーカ→染色工場→縫製工場→商社→アパレル小売(ブランドホルダー小売)」へと変わった。SPA化により、多くのアパレルが自社店舗、自社ECを持っているという状態になっており、縫製工場などは、アパレルが書いた縫製仕様書に従って縫製や検品を行っているだけで、自前でブランドなどもっていない。つまり、アパレルのバリューチェーンは、SPA化されたアパレルメーカーのファブレス工場でつくった商品を自前で売っているため、すでにD2Cなのである(上図参照)。