脳の血管が詰まる「脳梗塞」を発症した場合、患者はできるだけ早く専門家の処置を受ける必要があります。

しかし、手術できる外科医がすぐ近くの病院にいるとは限りません。

そこで、米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科のション・ジャオ氏ら研究チームは、脳梗塞患者を遠隔操作で手術できるデバイスを開発しました。

磁力を利用して血管内のワイヤーを操作することで、離れた場所からでも迅速な手術が可能になる、とのことです。

研究の詳細は、2022年4月13日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。

目次
脳梗塞患者を救うには「迅速な処置」が必須!
磁石で脳血管内のワイヤーを操作して血管詰まりを解消する

脳梗塞患者を救うには「迅速な処置」が必須!

ジョイスティックで脳梗塞を「遠隔手術」できる技術が登場!
(画像=脳血管の詰まりには、迅速な処置が必要 / Credit:Kim Yoonho(YouTube)_[Telerobotic Stroke Intervention] Summary Video(2022)、『ナゾロジー』より引用)

脳梗塞の患者を救うためには、迅速に血管の詰まりを解消しなければいけません。 近年では、患者への負担を減らすために「血管内治療」が選択されます。

皮膚を切ったり頭蓋骨を開いたりせずに、足や手首の血管からカテーテルやワイヤーを挿入するのです。

一般的には、X線撮影をしながら、ワイヤーで血栓を物理的に崩したり、薬剤投与で溶かしたりします。

ジョイスティックで脳梗塞を「遠隔手術」できる技術が登場!
(画像=ワイヤーをねじって操作するのが一般的 / Credit:Kim Yoonho(YouTube)_[Telerobotic Stroke Intervention] Summary Video(2022)、『ナゾロジー』より引用)

しかし、この手術ができるのは、特別な訓練を受けた外科医だけです。 外科医はワイヤーを細かくねじりながら、目的の患部まで挿入していきますが、血管を傷つけないよう慎重に操作しなければなりません。

習得までに何年ものトレーニングが必要であり、熟練した外科医は貴重な存在だと言えます。

そのため、遠隔地で脳梗塞を発症した患者は、手術可能な外科医がいる病院に搬送されるのに、どうしても時間がかかってしまいます。

これでは脳へのダメージを最小限に抑えることができません。

そこで研究チームは、脳梗塞患者のための「遠隔操作できる治療法」を開発することにしました。

磁石で脳血管内のワイヤーを操作して血管詰まりを解消する

ジョイスティックで脳梗塞を「遠隔手術」できる技術が登場!
(画像=磁石でワイヤーを操作 / Credit:Kim Yoonho(YouTube)_[Telerobotic Stroke Intervention] Summary Video(2022)、『ナゾロジー』より引用)

新たに開発されたシステムには、先端に磁石を装着した多関節ロボットアームを使用します。 そして、血管に挿入するワイヤーの先端が磁石に反応するようになっています。

外科医は離れた場所から、マウスを使ってワイヤーを前進。

ジョイスティックで脳梗塞を「遠隔手術」できる技術が登場!
(画像=ロボットアームと磁石を動かし、ワイヤーを前進させる / Credit:Kim Yoonho(YouTube)_[Telerobotic Stroke Intervention] Summary Video(2022)、『ナゾロジー』より引用)

また、ジョイスティックを使って磁石を回転させられます。 磁石の回転により、ワイヤーを引っ張る方向と強さが変化するため、ワイヤーの進行方向を微妙に調整できるのです。

これにより、遠隔操作でも繊細な動きが可能に。

実際、脳の血管を模倣したテストでは、曲がりくねった疑似血管を通って、目的の疑似血栓を除去することに成功しました。

しかも、外科医はわずか1時間のトレーニングで、新しい技術を会得したとのこと。

地方の病院に新しいデバイスを設置するなら、熟練した外科医は、大きな病院から遠隔で手術できるようになるでしょう。

もしかしたら今後、「一刻を争う症状」を遠隔操作が救ってくれるかもしれません。


参考文献

Joystick-operated robot could help surgeons treat stroke remotely

元論文

Telerobotic neurovascular interventions with magnetic manipulation


提供元・ナゾロジー

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