脳の血管が詰まる「脳梗塞」を発症した場合、患者はできるだけ早く専門家の処置を受ける必要があります。
しかし、手術できる外科医がすぐ近くの病院にいるとは限りません。
そこで、米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科のション・ジャオ氏ら研究チームは、脳梗塞患者を遠隔操作で手術できるデバイスを開発しました。
磁力を利用して血管内のワイヤーを操作することで、離れた場所からでも迅速な手術が可能になる、とのことです。
研究の詳細は、2022年4月13日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。
目次
脳梗塞患者を救うには「迅速な処置」が必須!
磁石で脳血管内のワイヤーを操作して血管詰まりを解消する
脳梗塞患者を救うには「迅速な処置」が必須!

脳梗塞の患者を救うためには、迅速に血管の詰まりを解消しなければいけません。 近年では、患者への負担を減らすために「血管内治療」が選択されます。
皮膚を切ったり頭蓋骨を開いたりせずに、足や手首の血管からカテーテルやワイヤーを挿入するのです。
一般的には、X線撮影をしながら、ワイヤーで血栓を物理的に崩したり、薬剤投与で溶かしたりします。

しかし、この手術ができるのは、特別な訓練を受けた外科医だけです。 外科医はワイヤーを細かくねじりながら、目的の患部まで挿入していきますが、血管を傷つけないよう慎重に操作しなければなりません。
習得までに何年ものトレーニングが必要であり、熟練した外科医は貴重な存在だと言えます。
そのため、遠隔地で脳梗塞を発症した患者は、手術可能な外科医がいる病院に搬送されるのに、どうしても時間がかかってしまいます。
これでは脳へのダメージを最小限に抑えることができません。
そこで研究チームは、脳梗塞患者のための「遠隔操作できる治療法」を開発することにしました。
磁石で脳血管内のワイヤーを操作して血管詰まりを解消する

新たに開発されたシステムには、先端に磁石を装着した多関節ロボットアームを使用します。 そして、血管に挿入するワイヤーの先端が磁石に反応するようになっています。
外科医は離れた場所から、マウスを使ってワイヤーを前進。

また、ジョイスティックを使って磁石を回転させられます。 磁石の回転により、ワイヤーを引っ張る方向と強さが変化するため、ワイヤーの進行方向を微妙に調整できるのです。
これにより、遠隔操作でも繊細な動きが可能に。
実際、脳の血管を模倣したテストでは、曲がりくねった疑似血管を通って、目的の疑似血栓を除去することに成功しました。
しかも、外科医はわずか1時間のトレーニングで、新しい技術を会得したとのこと。
地方の病院に新しいデバイスを設置するなら、熟練した外科医は、大きな病院から遠隔で手術できるようになるでしょう。
もしかしたら今後、「一刻を争う症状」を遠隔操作が救ってくれるかもしれません。
参考文献
Joystick-operated robot could help surgeons treat stroke remotely
元論文
Telerobotic neurovascular interventions with magnetic manipulation
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功