バロンズ誌、今週のカバーはESG投資を取り上げるが、タイトルに「サステナブル投資は、最初の試練を乗り越えられなかった」と掲げるように大胆にも見直しが必要だと主張する。
過去数年間にわたり、環境や社会、ガバナンスを意識した投資が主流となり、ESG投資に何十億ドルもの資金が流入、ESGは流行語にもなった。その結果、大小問わず新たなESGファンドを創設し、ESGに絡んだ運用資産額は、デロイトによれば世界全体で2021年に46兆ドルと全ての運用資産額の4割に及ぶ。2024年には、ESG関連の運用資産額は80兆ドルを超え、全体の5割に届く見通しだ。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ESG投資は最初の試練を迎えている。投資家は再びエネルギー関連や防衛関連への投資へ傾き始め、低炭素化技術を有する銘柄は逆に売られ、1~3月期にはESGファンドから資金流出を確認しベンチマークすら下回った。もちろん、わずか1四半期でのアンダーパフォームが今後の動向を表すわけではない。しかし、数々の批判に基づけば、ESGファンドにおけるパフォーマンスの弱さは投資のアプローチが一因で、且つ環境問題に特化する戦略も見直しに迫られ、欧州で見られるような人道の危機に照らし合わせ社会的要因をより配慮すべきと考えられよう。
今後のESGに関する展望など、詳細は本誌をご覧下さい。
当サイトが定点観測する名物コラムのアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は物価高における個人消費への影響に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。
米経済は活況なのか崩壊しつつあるのか?それは経済指標次第―Is the U.S. Booming or Busting? It Depends on the Data You Examine.
作家のスコット・フィッツジェラルドは「優れた知性とは、二つの対立する概念を同時に抱きながら、その機能を充分に発揮していくことができるということだ」との名言を残した。足元、まさに我々は金融関連のTV局が伝える情報は景気から消費者の動向まで、相反するものが多い。例えば、経済再開の追い風を受け、イースター休暇中に航空機はそろって満席だった。デルタ空港は1~3月期の決算では、オミクロン株感染拡大を受けながら予想より赤字幅を縮小させ、さらに燃料価格の上昇による需要の低下は確認できていないという。
しかし、一部の消費者にとって燃料コストは裁量消費の重石となっている。米3月小売売上高のように、インフレ調整済みの実質ベースの消費は弱い。さらに、多くの消費者特に低所得者層の間で食費やガソリンなど燃料の支払いが困難となり、クレジットカードへの依存度が高まりつつある。
また、一部のリアルタイム指標として、家具や電化製品などの高額商品で売上高や在庫積み増しに鈍化の兆しが表れている。これは、景気循環銘柄のリターンがディフェンシブ銘柄を下回る動きと一致している。
米経済は活況にあるのか、あるいは崩壊へ向かっているのだろうか?この問題は、優れた知性への挑戦と言えよう。あるいは、深刻な認知的不協和をもたらしうる。
バンク・オブ・アメリカ・リサーチ・インスティチュートによれば、銀行のデビットカード利用額は3月に前年同月比11%増、4月8日までは前年同期比18%増となった。特に年収5万ドル(約625万円)以下で目立ち、高所得者層より多くを光熱費やガソリン、食品などに利用していたためだ。コロナ前との比較では33.3%増となる。同時に、コロナ前から普通預金の口座残高がもっとも力強く伸びたのも年収5万ドル以下となり、2019年初めと比較し1,500ドル増加していた。つまり、彼らは支出余地があると言えよう。
対照的に、米2月消費信用残高は418億ドル増加(前月比0.9%増)し、統計開始以来で3番目に大きな規模となった。マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ氏によれば、これは消費者がインフレ加速の最後の手段として絶望的な手段に訴えている状態を示すという。
チャート:米2月消費者信用残高は過去最大を更新、増加幅は過去3番目
チャート:クレジットカードなどの回転信用の増加幅は2月に前月比178億ドル増(1.7%増)に対し、自動車ローン・教育ローン・移動住宅向けローンなどの非回転信用は同238億ドル増(0.7%増)と、規模の割りに回転信用の伸びが際立つ
チャート:クレジットカードなどの回転信用の増加幅、足元のCPIの加速が影響か?
米3月小売売上高は前月比0.5%増だったが、ポンボイ氏によればガソリンを除けばこマイナスとなる。さらに言えば、インフレ調整すれば一段と下げ幅を拡大させる(筆者注:こちらをご参照)。インフレにより多くを支払う必要に迫られるという状況は、1970年代を経験した人々にはおなじみ、スタグフレーションという言葉を思い出させるだろう。
何より、ローゼンバーグ・リサーチの創設者、デビッド・ローゼンバーグ氏によれば、景気敏感株の下落は事実上の景気後退を意味する。S&P500のうち銀行を始め住宅建設、小売など景気敏感株から、生活必需品を始め公益、ヘルスケアなどのディフェンシブ銘柄で割った倍率をみると、足元で右肩下がりをたどり1年前から24%下落していた。こうした現象は、1998~01年、2004~08年、2018~20年と過去の景気後退局面の間で確認できた。
チャート:景気敏感株/ディフェンシブ株、Fedの引き締め観測を受けロシアによるウクライナ侵攻前から右肩下がり
景気後退シナリオに欠かせないのは、経済からインフレを除くために必要な金融引き締めだ。セントルイス地区連銀のブラード総裁は、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで、経済活動を抑制するほどの高い金利なしにインフレが低減すると考えるのは「まやかし」と述べた。
パウエルFRB議長とブレイナードFRB理事によれば、3月にわずか25bpの利上げを開始しただけで保有資産の圧縮に着手していないながら、金融動向は既に大いに引き締まったという。しかしながら、ブリーン・キャピタルのジョン・ライディング氏などによれば、金融動向は未だ非常に緩和的だ。全米金融動向指数は依然として緩和的で、これは金融市場がインフレ抑制に必要な引き締めを見込んでいないことを示唆する。
クレディ・スイスのゾルタン・ポズサー氏は、中銀の問題としてマネーのように燃料や小麦などを供給できないことだと指摘する。また同氏は、中銀の政策手段が限られるなか、物価安定は困難となり中銀の信用を損ないかねないとも警告する。
短期的にFRBや他の中央銀行は、インフレを抑制するためにパンデミック後に減少した供給に合わせて総需要を減らすしかない。問題は、この抑制が、成長が衰える兆しを見せているときに、遅ればせながら行われることだ。そしてそれは、ほとんどの正常な投資マインドに認知的不協和を引き起こすのに十分だろう。
――バロンズ誌名物コラム、金利上昇局面でのクレジットカード依存は利払い負担を増やし、結果的に裁量消費を縮小させるだけに、景気の重石として懸念を投げ掛けてきました。NY地区連銀によれば、2021年末時点での家計債務は15.6兆ドルと過去最大を更新し、10~12月期でのクレジットカード債務の増加幅(前期比520億ドル)も統計開始以来で最大を記録していたものです。当時は年末商戦を挟んだために大幅増加しましたが、今後はインフレ動向を受け、一段とクレジットカードへの依存が高まるのか、5月に発表される1~3月期の結果が待たれます。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年4月17日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。
文・安田 佐和子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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